AI概要
【事案の概要】 本件は、武士道に関する書籍の出版をめぐり、著作者の遺族である原告と出版社である被告との間で、本訴と反訴が提起された事案である。原告の夫であるBは、被告の依頼により武士道に関する書籍の原稿を執筆していたが、平成27年12月に死亡した。その後、原告がBの未完成原稿を推敲・完成させ、被告との間で出版に向けた校正作業等を進めていた。被告は令和2年8月頃、出版契約が未締結であるにもかかわらず、自社ウェブサイトや各書籍販売サイトで本件書籍の出版予告を掲載した。原告は、本訴において、被告の出版予告行為がBの著作者人格権(公表権)を侵害した(主位的請求)、又は原告の自己決定権を侵害した(予備的請求)と主張して330万円の損害賠償を求めた。一方、被告は反訴において、B又は原告との間で出版許諾契約が成立していたにもかかわらず原告が出版を拒絶したとして、142万1345円の債務不履行に基づく損害賠償を求めた。 【争点】 ①Bと被告との間の出版許諾契約(本件出版許諾契約1)の成否、②原告と被告との間の出版許諾契約(本件出版許諾契約2)の成否、③著作者人格権(公表権)侵害の有無、④原告の自己決定権侵害の有無。 【判旨】 裁判所は、原告の本訴請求及び被告の反訴請求をいずれも棄却した。 反訴請求について、本件出版許諾契約1に関しては、被告代表者自身がBとの間で出版許諾契約の締結やその際の経済的条件等について話をしたことは一度もないと陳述しており、契約書その他の書面も作成されていないことから、契約の成立は認められないとした。本件出版許諾契約2に関しては、原告が被告契約書案の説明に特段の異議を述べなかったことをもって直ちに承諾したとはいえず、署名押印もしていないこと、その後の出版に向けた作業の継続も契約締結を前提としなければ不合理であるとまではいえないとして、契約の成立を否定した。 本訴請求について、著作者人格権(公表権)侵害に関しては、本件予告には本件書籍の書籍名や著者紹介、被告作成の内容紹介文が掲載されているにとどまり、原稿の文章自体は記載されていないため、著作物を公衆に提供又は提示したとはいえないとした。また、著者の思想自体はアイデアであって著作物ではなく、これを紹介しても公表には当たらないと判示した。自己決定権侵害に関しては、原告が主張する「本を出版しようとする者の自己決定権」は法的保護の対象とし得る程度の具体性を備えていないとし、商業出版においては出版社も各種費用を負担する以上、著作権者が出版の時期や価格等の決定権を一方的に有すると考えることに合理性は乏しいと判示して、不法行為の成立を否定した。