AI概要
【事案の概要】 本件は、「足裏マット、中敷き、及び靴」に関する特許出願について、拒絶査定に対する不服審判請求を不成立とした特許庁の審決の取消しを求めた訴訟である。原告(大黒屋グループ株式会社)は、中敷きの足裏マットに前坪(足の趾股に挟む柱状の突起具)を取り付けるための貫通孔(前坪取付孔)を、趾股が位置する周囲の領域において足の長さ方向及び幅方向にそれぞれ複数設けることで、個人差や足の成長に対応した前坪位置の微調整を可能とする発明について特許出願をした。特許庁は、本願発明は引用発明(甲1:特許第6617308号。前坪取付孔を前後方向にのみ複数設けた中敷き)及び甲2(実願昭63-155106号。靴中底に差し込み穴を前後左右に平面的に複数設けた足先靴擦れ防止具)に基づき、当業者が容易に発明できたとして進歩性を否定し、請求不成立の審決をした。 【争点】 本願発明と引用発明の相違点である、前坪取付孔が「少なくともいずれかの趾股が位置する周囲の領域において、足の長さ方向及び足の幅方向にそれぞれ複数設けられている」構成(相違点2)について、当業者が容易に想到し得たか否かが争点となった。原告は、①甲2には趾股周囲の領域における幅方向の差し込み穴の開示がない、②引用発明に甲2を適用する動機付けがない、③適用には阻害要因がある、④本願発明には予測できない顕著な効果がある、と主張した。 【判旨】 知的財産高等裁判所は、原告の請求を棄却した。裁判所は、引用発明を含む甲1記載の発明が前坪の位置を個人の足に合わせて適切に調節する方法に係るものであり、複数の挿通開口もそのための構成であると認定した。また、甲2技術についても、靴及び足の寸法や形に合わせて突起具を適切な位置に調節するとの技術思想が示されていると認めた。そして、趾股の位置に前後方向だけでなく左右方向にも個人差があることは技術常識であること、靴の内部で足が前後方向のみならず左右方向にも移動し得ることを踏まえ、当業者が引用発明に甲2技術を適用して前坪取付孔を前後方向のみならず左右方向にも複数設ける構成とすることは容易に想到し得たと判断した。原告主張の阻害要因についても、「個人差に合わせた初期設定」と「使用用途に応じた位置調整」の区別を前提とした主張はその前提を欠くとし、顕著な効果についても予測できない顕著なものとは認められないとして、いずれも排斥した。