AI概要
【事案の概要】 本件は、昭和28年生まれの無職の女性である原告が、被告証券会社(SMBC日興証券)の従業員Cの勧誘により、2回にわたり仕組債を買い付けたことに関する損害賠償請求事件である。原告は、三井住友銀行の従業員Bから紹介を受け、平成26年11月、ブラジルレアル連動の為替連動型仕組債(本件仕組債1)を額面2000万円で購入した。さらに平成27年10月には、三井住友フィナンシャルグループ及び日本航空の株価を参照指標とする私募のEB債(他社株転換可能債券、本件仕組債2)を額面2500万円で購入した。原告は、年金暮らしの専業主婦であり、当時約3700万円の金融資産を保有していたが、本件仕組債2の購入に際しては夫に無断で夫の預金2000万円を原資に充てた。本件仕組債1は令和元年に約1173万円で満期償還され約827万円の損失が生じ、本件仕組債2は令和2年に日本航空株式5500株で現物償還された。原告は、適合性原則違反、説明義務違反及び指導助言義務違反を理由に、約2481万円の損害賠償を請求した。 【争点】 主な争点は、(1)被告従業員Cによる各仕組債の買付勧誘が適合性原則に違反する違法なものであったか、(2)説明義務違反の有無、(3)買付け後の指導助言義務違反の有無、(4)損害額及び過失相殺の可否であった。特に、原告の投資経験・知識・財産状態に照らして、複雑かつリスクの高い仕組債の勧誘が適合性原則から著しく逸脱していたかが中心的な争点となった。 【判旨】 裁判所は、本件仕組債1については、仕組み自体が複雑とはいえず、原告が基本的な仕組みとリスクを理解しており、財産状態に照らしても過大な危険とはいえないとして、適合性原則違反、説明義務違反及び指導助言義務違反のいずれも否定した。一方、本件仕組債2については、参照指標が複数存在し仕組みが複雑である上、買付当時の株価水準に照らせば株式による現物償還の確率が相応にあったにもかかわらず、Cが「万一ということもないと思います」とリスクを過小に説明したこと、原告の老後資金のほぼ全額を元本毀損リスクにさらす結果となったこと、さらにCが被告の内部基準(預り資産1億円以上)を潜脱するため原告の保有金融資産を「1億円以上5億円未満」とする虚偽の記録を作成したことを重視し、適合性原則から著しく逸脱した違法な勧誘と認定した。過失相殺については、適合性を欠く顧客に対してはそもそも勧誘してはならないのであるから、特段の事情がない限り顧客の過失を斟酌することは許されないとして否定した。損害額は、買付代金2500万円から利金約398万円、日本航空株式の口頭弁論終結時評価額約1429万円及び調整金約6万円を損益相殺し、弁護士費用約67万円を加えた733万1452円を認容した。