AI概要
【事案の概要】 本件は、昭和54年10月に鹿児島県曽於郡大崎町で発生した殺人・死体遺棄事件(いわゆる大崎事件)に関し、Aの第4次再審請求及びBの遺族による第3次再審請求について、鹿児島地方裁判所が再審請求を棄却した原決定に対する即時抗告審である。確定判決は、Aが夫B及び義弟Cと共謀の上、日頃から酒癖が悪く確執のあった義弟D(当時42歳)を、泥酔して前後不覚となっていた同人方において西洋タオルで頸部を絞めて窒息死させ、その後Cの長男Fも加わり死体を牛小屋の堆肥中に埋没させて遺棄したと認定し、Aを懲役10年、Bを懲役8年等に処したものである。弁護側は新証拠として、救急救命医N教授による鑑定(Dは溝への転落事故により非骨傷性頸髄損傷等を負い、近隣住民H及びIによる救護過程で症状が悪化して死亡した可能性が高いとするもの)、テキストマイニングによるS鑑定、供述心理学によるQ・R鑑定を提出し、H及びIの各供述の信用性を争った。 【争点】 新証拠であるN鑑定、S鑑定及びQ・R鑑定が、刑訴法435条6号の「無罪を言い渡すべき明らかな証拠」に該当するか。具体的には、(1)N鑑定によりDの死因が絞殺ではなく転落事故に起因する可能性が認められるか、(2)各新証拠によりH及びIの各供述(生きているDを土間に置いて立ち去った旨の供述)の信用性が減殺されるか、(3)これらによりB・C・Fの各自白及びGの目撃供述の信用性が動揺し、確定判決の事実認定に合理的疑いが生じるかが争われた。 【判旨】 福岡高裁宮崎支部は、即時抗告を棄却した。N鑑定について、Dが溝への転落により非骨傷性頸髄損傷を負った可能性や、H・Iの救護過程で高位頸髄損傷に至り呼吸停止した可能性は否定できないとしつつも、腐敗が著しい死体の限られた写真資料からの推論であること、解剖医が確認していない部位の損傷を前提としていること等の問題点を指摘し、死因や死亡時期を高い蓋然性をもって推論するものではないとした。また、H及びIについて、何ら責められる立場になく死体遺棄に及ぶ動機がないこと、約30分でDの死体を堆肥に埋没させることは困難であること、事後の行動が死体遺棄の犯人と相容れないこと等から、両名が虚偽供述をしている可能性は想定し難いとした。S鑑定及びQ・R鑑定については、いずれも供述の信用性判断のための視点を提供する役割にとどまり、対象供述の信用性を直ちに減殺するものではないとした。以上から、新証拠を総合しても確定判決の事実認定に合理的疑いを差し挟むものとはいえないと結論づけた。