有印私文書偽造・同行使、詐欺
判決データ
AI概要
【事案の概要】 大学医学部法医学教室の主任教授であった被告人が、3つの類型の詐欺等を行った事案である。第1に、医療衛生用品卸売業者B社の従業員らと共謀し、被告人が私的に購入したゴルフ用品等の代金をB社から法医学教室への医療用品納品に偽装した架空の請求書・領収書を作成し、立替金精算名目でA大学から57回にわたり合計約2173万円を詐取した。第2に、同様の手口で22回にわたり合計約1009万円を詐取した。第3に、B社退職後の元従業員と共謀してB社名義の請求書・領収書66通を偽造し、22回にわたり合計約1740万円を詐取した(有印私文書偽造・同行使・詐欺)。第4に、法医学教室の講師Hと共謀し、司法解剖において実際には実施していない薬毒物検査やウイルス・細菌検査を実施したかのように虚偽の報告書を作成して大阪府警察本部に送付し、64回にわたり合計約3540万円の検査料を不正に請求・詐取した。第5に、同様に調査法解剖においても16回にわたり合計約186万円を詐取した。被害総額は合計約8600万円に上る。 【争点】 大阪府警察本部を被害者とする第4・第5の事実(警察関係事件)について、被告人とHとの共謀の有無及び詐欺の実行行為の有無が争われた。弁護人は、被告人がHに不正請求を指示した事実はなく、解剖中に被告人が発した「てい」「T」という言葉は検査の「停止」を意味するものであって不正請求の指示ではないと主張した。また、検査依頼先であるJ及びI社の検査実績と報告内容の対照のみでは架空請求の立証として不十分であるとも主張した。 【判旨(量刑)】 裁判所は、Hの証言について詳細に信用性を検討した。法医学教室では主任教授である被告人が最上位者として強い影響力を有し、解剖検査料は大学口座を経由して講座費3の予算枠に組み入れられ、被告人がその管理者としてキャッシュカードによる100万円単位の出金を繰り返すなど利害関係を有していた一方、H等にはこのような動機がなかった。被告人が解剖中にHに対し「てい」「T」と発言していた事実は録音記録やK証言とも符合し、Hが被告人に送信した検査結果の虚偽記載に関するメールも裏付けとなった。Hの供述に一部変遷はあるものの、核心部分の信用性を揺るがすものではないと判断した。他方、被告人の「てい」は「停止」の意味であるとの弁解は、Hが被告人の関与なく不正をしながら無関係に「停止」の一音のみを省略して述べたことになり不自然であるとして排斥した。詐欺の実行行為についても、捜査報告書による架空請求の特定に不整合はなく、犯罪事実を認定した。量刑については、主任教授という信頼ある立場を悪用した巧妙かつ継続的な犯行であり、約6年にわたり手口を悪質化させながら詐欺を繰り返し、被害額は合計8600万円余りと高額で結果は重大であるとした。被告人が大学関係の被害額を全額弁償していること、前科前歴がないこと等を考慮しても実刑は免れないとして、求刑懲役7年に対し、懲役5年(未決勾留日数90日算入)を言い渡した。