AI概要
【事案の概要】 本件は、フォトジャーナリストである原告が、ツイッター上で被告により人格権を侵害する投稿がされたとして、不法行為に基づく損害賠償195万円及び遅延損害金の支払を求めた事案である。原告の父は在日コリアン二世であり、原告は令和2年12月に父の外国人登録原票に関する記事をインターネット上に公表した。これに対し、被告は「チョン共が日本に何をしてきたとか学んだことあるか?」「お前の父親が出自を隠した理由は推測できるわ」等の投稿を行った。原告は、発信者情報開示仮処分及び発信者情報開示訴訟を経て被告を特定した。 【争点】 1. 本件投稿は被告が行ったものか(争点1):被告は、ツイッター社から開示されたメールの成立の真正を争い、また、パスワード不要で接続可能なルーターを使用していたため第三者がログインした可能性があると主張した。さらに、本件ログインと本件投稿の間に1時間34分の時間差があり、ログインの競合もあり得ると主張した。 2. 不法行為の成否(争点2):原告は、①本邦外出身者がそのことを理由に差別され地域社会から排除されない権利の侵害、②本邦外出身者がその出身国等の属性に関して有する民族的アイデンティティの侵害を主張した。被告は、本件記事は原告個人に向けられた差別的表現ではなく、不法行為は成立しないと主張した。 3. 損害額(争点3):原告は慰謝料150万円、発信者情報開示のための弁護士費用30万円、本件訴訟のための弁護士費用15万円を主張した。 【判旨】 争点1について、裁判所は、発信者情報開示手続の経過から本件ログインに係るIPアドレスの契約者が被告であると認定した。被告のルーターに関する主張については、個人利用のルーターでパスワードを設定せず近隣住民が自由に利用できる設定とすることは通常考え難く、被告以外の第三者が使用していたことを窺わせる事情も認められないとして排斥した。ログインから投稿までの1時間34分の時間差についても、ログイン状態を継続して投稿することは十分に考え得るとし、本件投稿は被告によるものと推認した。 争点2について、裁判所は、地域社会から排除されない権利の侵害については、本件投稿が著名人でない被告による1件の投稿であり、閲覧者に原告を地域社会から排除することを扇動する表現とまではいえないとして否定した。他方、民族的アイデンティティの侵害の主張は、出自に関する名誉感情の侵害の主張と解した上で、本件記事が「チョン共」という差別的表現を用いて原告の父のみならず原告自身をも韓国にルーツを有することを理由に侮辱するものであり、差別的言動解消法や人種差別撤廃条約の趣旨に照らし、社会通念上許される限度を超える侮辱行為であると認め、不法行為の成立を肯定した。 損害額について、慰謝料は30万円、弁護士費用は3万円の合計33万円を認容した。発信者情報開示のための弁護士費用は、支出を裏付ける証拠がないとして否定した。