発信者情報開示請求事件
判決データ
AI概要
【事案の概要】 本件は、アダルトビデオの制作・販売等を業とする原告が、被告(インターネット接続サービスを提供するプロバイダ)に対し、ファイル交換共有ソフト「BitTorrent」を利用して原告の著作物である動画の電子データを送信可能化した氏名不詳の契約者らの発信者情報の開示を求めた事案である。原告は、調査会社HDRが開発した著作権侵害検出システム(本件ソフトウェア)を用いた調査結果に基づき、被告の契約者らがBitTorrentのネットワーク上で原告の動画ファイルを送信可能な状態に置いていたと主張した。 【争点】 主な争点は、①原告が著作物の著作権を有するか、②送信可能化権侵害の明白性、③BitTorrentを介した通信が「特定電気通信による情報の流通」に該当するか、④被告が「開示関係役務提供者」に該当するか、⑤発信者情報の開示を受けるべき正当な理由の有無であった。特に②について、被告は、本件ソフトウェアがプロバイダ責任制限法ガイドライン等検討協議会の技術的認定を受けていないこと、調査結果に実在しないIPアドレスと発信時刻の組合せが含まれていたこと、シーダーとリーチャーを区別していないことなどを指摘して調査の信用性を争った。 【判旨】 請求棄却。裁判所は、まず著作権の帰属(争点①)については原告の著作権を認めた。しかし、送信可能化権侵害の明白性(争点②)については否定した。その理由として、第一に、訴状記載の703件のIPアドレス・発信時刻の組合せのうち、被告のログ保存期間内の75件中4件(約5.3%)について対応するログが存在せず、その原因も不明であること、ソフトウェアの正確性テストも原告代理人事務所の事務員が実施しており客観性に欠けることから、調査の正確性に相当程度の疑問があるとした。第二に、仮に調査が正確であるとしても、本件ソフトウェアはハンドシェイク後に契約者らが保有するピースのダウンロードを行っていないため、契約者らが動画ファイルのピースをどの程度保有していたかは不明であり、著作物の創作性ある部分の複製に当たるデータを保有していたと認めるに足りる証拠がないとした。さらに、BitTorrentでは全てのピアが一部のピースしか保有していない場合にはファイル全体の受信ができない可能性があり、不特定の者がピースを順次受信できる状態にあったことも明らかでないとして、送信可能化権侵害が明らかであるとは認められないと判断した。