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【事案の概要】 被告滑川市が設置する中学校の教諭D(当時42歳)は、3年生の学級担任、理科の教科担当、女子ソフトテニス部の顧問等を務めていたところ、平成28年7月22日にくも膜下出血を発症し、同年8月9日に死亡した。Dの妻である原告A及び子である原告B・原告Cが、校長が教員の業務遂行に伴う疲労や心理的負荷等を過度に蓄積させないよう注意する安全配慮義務を怠ったことが原因であるとして、被告滑川市に対しては国家賠償法1条1項に基づき、校長の給与負担者である被告富山県に対しては同法3条1項に基づき、連帯して合計約1億629万円の損害賠償を求めた事案である。Dの時間外勤務時間数は、発症前1か月に約119時間、発症前2か月平均で約127時間に達し、厚生労働省の過労死認定基準を大幅に超過していた。また、発症前25日間の連続勤務をはじめ、長期にわたる連続勤務が常態化していた。地方公務員災害補償基金は本件発症を公務上の災害と認定していた。 【争点】 主な争点は、①校長の安全配慮義務違反の有無(特に部活動指導に係る時間外勤務を校長の注意義務の対象に含めるべきか)、②安全配慮義務違反と発症との因果関係、③損害額、④脳動脈瘤や高血圧症を理由とする素因減額の可否、⑤降圧剤の服用中止等を理由とする過失相殺の可否である。被告らは、部活動指導は教員の自発的行為であり時間外勤務時間数から除外すべきであること、校長の予見可能性は外部から認識し得る具体的な健康被害の徴候がある場合に限られること等を主張した。 【判旨】 裁判所は、原告らの請求を大部分認容し、被告らに連帯して合計約8313万円の支払を命じた。まず、校長の安全配慮義務について、中学校の校長は監督する教員の業務遂行状況や労働時間を把握し、心身の健康を損なうことのないよう是正すべき義務を負うと判示した。部活動指導については、全教員が顧問を担当する体制のもと校長及び校務運営委員会が配置決定に関与していたこと、休日の部活動指導に手当が支給されていたこと等から、教員としての業務として行われたことは明らかであり、部活動指導の時間を含めて業務の過重性を評価すべきであるとした。校長の予見可能性についても、外部から認識し得る具体的な健康被害の徴候に限定すべきではなく、過重な長時間労働の認識可能性で足りるとした。因果関係については、厚労省基準及び地公災基準を大幅に超える時間外勤務と長期連続勤務の実態から肯定した。素因減額については、脳動脈瘤は同種労働者の健康状態から逸脱するものではなく、高血圧症も特段重いものではなかったとして否定した。過失相殺についても、降圧剤の不処方は医師の判断によるものであり、D自身の過失とはいえないとして否定した。