AI概要
【事案の概要】 被告人は、令和3年6月11日、大阪市内のカラオケパブ店内において、被害女性(当時25歳)に対し、殺意をもって刃物でその頸部、項部、胸部を多数回突き刺すなどし、刺創による右頸部深部筋断裂、左肺貫通創等に基づく失血・空気塞栓により死亡させて殺害したとされる殺人の事案である。被告人は被害者に対する好意や強い執着を抱いていたが、その好意が受け入れられなかったことが犯行動機に関係しているとみられる。被告人は犯行の約2週間前に粘着テープを購入するなど相当に計画的な犯行であった。原審(第一審)は被告人を懲役20年に処したが、被告人側が事実誤認及び量刑不当を主張して控訴した。 【争点】 第一の争点は、被告人が犯人であるか否かである。弁護人は、(1)犯行は複数犯であれば短時間で実行可能であり他の入館者にも犯行の可能性がある、(2)真犯人がビル1階出入口以外から侵入した可能性がある、(3)原審で警察官やDNA型鑑定の科捜研職員に対する反対尋問が不十分であった、(4)犯行動機や殺意の発生時期の解明が不十分で犯行前の被告人の行動が犯人として不自然であると主張した。第二の争点は、懲役20年とした原判決の量刑が重すぎるか否かである。 【判旨(量刑)】 大阪高裁は、原判決の犯人認定を是認し、控訴を棄却した。犯人性について、被告人は犯行可能時間帯にビル内で不審な行動をとっており犯行の機会があったこと、犯行後1週間から10日余りで押収された被告人のビジネスシューズやスーツジャケットから被害者と一致するDNA型が検出されたこと、犯行現場の床面から犯行前にはなかった被告人の結婚指輪が発見されそこから被害者のDNA型と合致する型が検出されたことなどの間接事実を総合し、被告人が犯人であるとの認定に不合理なところはないとした。弁護人の複数犯の主張については、損傷がおおむね1種類の刃物によるものであり単独犯の可能性が高いとして退け、その他の主張もいずれも抽象的な可能性の指摘にすぎないとした。量刑については、被害者に落ち度がなく身勝手な動機であること、強固な殺意による無慈悲で残酷な犯行であること、計画的犯行であること、被告人に反省が見られないことなどから、無期懲役刑か有期懲役刑かという判断枠組みの中で有期懲役刑の上限である懲役20年とした原判決の判断は正当であるとした。原判決後に損害賠償命令の決定がなされた事情についても、被告人は遺族への賠償を自ら積極的に行っておらず、量刑を左右する事情とはいえないとして、原判決の量刑を維持した。