AI概要
【事案の概要】 音響効果の企画・制作等を業とする原告会社が、昭和52年から平成29年まで約40年間原告に勤務し音響効果業務を担当していた被告に対し、損害賠償を請求した事案である。被告は退職に際し、原告が保有する音源を持ち出さない旨の退職合意書(本件合意書)を締結していた。本件合意書第9条では、原告の音源の持ち出し・使用を禁止し、違反した場合は1音源あたり50万円の損害賠償を支払う旨が定められていた。原告は、被告が退職後に原告保有の複数の音源を持ち出してテレビ番組等の音響効果に使用したことが本件合意の債務不履行に当たるとともに、音源の一部について原告が有するレコード製作者の権利(著作権法96条の複製権)を侵害するとして、1050万円の損害賠償を請求した。 【争点】 主な争点は、(1)本件合意により持ち出し等が禁止された音源の範囲、(2)被告が実際に原告の音源を持ち出して使用したか、(3)本件合意の損害賠償条項が暴利行為として無効か、(4)原告が「拳銃コミック6mmテープ」についてレコード製作者の権利を有するか、であった。特に、被告は本件合意書の文言上「著作権を有する音源」に限定されると主張し、また持ち出しが争いのない「朝の雀6mmテープ」についてもアニメ「サザエさん」での使用について原告の許諾があったと主張した。 【判旨】 裁判所は、まず争点(1)について、証人証言及び被告本人の供述から、本件合意において持ち出し禁止の対象は著作権法上の著作物に限らず原告保有の全音源であると認定した。争点(2)については、「朝の雀6mmテープ」について被告が原告から複製して退職後に使用したことは争いがないとした上で、仮に原告がアニメ「サザエさん」への使用を許諾していたとしても、その許諾は同作品に使用する限度にとどまるものと解するのが合理的であるとし、被告が「サザエさん」とは別の作品で同音源を使用したことは本件合意に違反すると判断した。他方、「朝の雀6mmテープ」以外の音源については、被告が原告から持ち出したことを直接裏付ける証拠がなく、問題の音源の多くは業界で一般に流通する市販品であり、被告が原告以外から入手できた可能性を否定できないとして、持ち出しの事実を認めなかった。争点(3)の暴利行為の主張については、1音源あたり50万円という金額は被告の負担能力等に照らし極めて高額とはいえず、同一音源の複数回使用で加算される定めもないとして、無効とすべき事情はないとした。争点(4)については、「拳銃コミック6mmテープ」のレコード製作者の権利の取得を裏付ける客観的証拠がないとして、原告の権利を認めなかった。以上から、原告の請求は「朝の雀6mmテープ」1音源分の50万円及び遅延損害金の限度で認容し、その余の請求を棄却した。