AI概要
【事案の概要】 本件は、「非水系塗料用の粉末状揺変性付与剤」に関する特許(特許第6806401号)について、特許異議の申立てに対してなされた特許取消決定の取消しを求める訴訟である。原告(特許権者・共栄社化学株式会社)は、特許請求の範囲に記載された「非アミドワックス成分(B)」の定義中、「重量平均分子量をポリスチレン換算で1,000~100,000とし」という記載(本件記載)について訂正請求をしたが、特許庁はこれを認めず、特許を取り消す決定をした。 本件特許の請求項1は、アミド化合物(A)、非アミドワックス成分(B)及び極性官能基を有するポリマー(C)を含む粉末状揺変性付与剤に関するものである。非アミドワックス成分(B)は「マイクロクリスタリンワックス、水素添加ひまし油、及びポリオレフィンワックスから選ばれるもので重量平均分子量をポリスチレン換算で1,000~100,000とし軟化点を低くても70℃とする」と規定されていた。原告は訂正により、非アミドワックス成分(B)からポリオレフィンワックスを削除し、マイクロクリスタリンワックス及び水素添加ひまし油について重量平均分子量の限定を削除しようとした。 【争点】 本件の主な争点は、①訂正要件の判断順序(特許法120条の5第2項ただし書の目的要件と126条6項の拡張・変更禁止要件のいずれを先に判断すべきか)、②本件訂正のうち非アミドワックス成分(B)に係る部分が「誤記の訂正」(特許法120条の5第2項ただし書2号)を目的とするものに該当するか否かである。原告は、マイクロクリスタリンワックス及び水素添加ひまし油の分子量はいずれも1000未満であることが周知であるから、これらに重量平均分子量1,000~100,000を要求する記載は誤記であると主張した。 【判旨】 裁判所は、原告の請求を棄却した。 まず、訂正要件の判断順序について、特許法には目的要件を先に判断すべき旨の明文規定はなく、両要件の間に論理的な先後関係も認められないとして、原告の主張を退けた。 次に、誤記の訂正の該当性について、裁判所は以下のとおり判断した。訂正前の記載における非アミドワックス成分(B)に含まれ得る物質は「マイクロクリスタリンワックス、水素添加ひまし油、及びポリオレフィンワックスから選ばれるもの」であり、これらのうち一部のみであってもよいと解される。重量平均分子量等の条件を満たすポリオレフィンワックスが現に存在する以上、記載全体としてみれば誤りが明らかとはいえない。また、仮に誤りがあるとしても、訂正後の記載として、マイクロクリスタリンワックス等を残す選択肢のみならず、これらを全部削除してポリオレフィンワックスのみを維持する選択肢も存在し得るから、訂正後の記載が正しいことが当業者にとって明らかとはいえないとした。以上から、本件訂正は誤記の訂正を目的とするものに該当せず、不適法であると結論付けた。