AI概要
【事案の概要】 本件は、意匠に係る物品を「瓦」とする意匠登録(意匠登録第1670710号)の意匠権者である原告らが、特許庁がした意匠登録無効審決の取消しを求めた事案である。原告らは沖縄の伝統的な琉球赤瓦をベースに、男瓦の両側部と上部にコ字状のラインを270度回転させた擬似漆喰模様を施した新型瓦(「ちゅら瓦」)を開発し、石垣市新庁舎の建設工事に使用するため、設計を担当する被告隈研吾建築都市設計事務所と協議を重ねていた。原告らは平成29年2月16日、被告事務所の従業員に対し、瓦のパンフレット等を電子メールで送付した。その3日後の同月19日、建築家D(被告事務所代表取締役)が石垣市の説明会で当該瓦を公開した。原告らは同年6月16日に特許出願をし、後に意匠登録出願に変更して登録を受けたが、被告らが意匠登録無効審判を請求し、特許庁は新規性欠如(意匠法3条1項3号)を理由に登録を無効とする審決をした。 【争点】 主な争点は、(1)原告らが被告事務所にパンフレット等を送付した行為(本件送付)により、引用意匠が「公然知られた意匠」に該当するに至ったか、(2)仮に該当するとしても、意匠法4条2項(新規性喪失の例外)が適用されるかの2点である。原告らは、被告事務所は開発中の瓦について信義則上秘密保持義務を負っていたと主張し、また、本件送付は説明会での公開(本件発表)に包摂される情報提供行為であるから新規性喪失の例外規定の適用を受けると主張した。 【判旨】 知的財産高等裁判所は、原告らの請求をいずれも棄却した。まず争点(1)について、裁判所は、秘密保持義務の有無は秘密保持契約の存在に限られず、社会通念上秘密にすることが求められる状況にあり、相手方がそのことを認識できれば足りるとの判断枠組みを示した上で、本件では、原告ら自身がDに対し説明会での公開を依頼していたこと、本件送付から本件発表まで僅か3日間であること、メールやパンフレットに秘密保持に関する記載が一切なかったこと、出願予定の説明もなかったこと等を総合考慮し、被告事務所が引用意匠を秘密にすることを社会通念上求められる状況にあったとは認められないとして、本件送付により引用意匠は公然知られた意匠に該当するに至ったと判断した。次に争点(2)について、裁判所は、複数の公開行為がある場合には原則として全ての公開行為について法定の証明書を提出する必要があるとした上で、本件送付と本件発表は行為の主体・客体・内容・態様を全て異にしており、本件送付が本件発表と実質的に同一とみることができるような密接に関連する行為とは評価できないとして、新規性喪失の例外規定の適用を否定した。