AI概要
【事案の概要】 本件は、被告が運営する大学医学部の平成30年度入学試験を受験した原告(受験当時32歳の男性)が、被告に対して損害賠償を求めた事案である。原告は、法学部卒業後、音楽活動を続けながら塾講師や飲食店スタッフとして勤務した経験を有し、平成28年度から医学部受験を開始した、いわゆる2浪の受験生であった。 原告は、一般入学試験A方式(一次試験で学力順位216位)及びセンター・一般独自併用方式試験(一次試験で順位20位、二次試験合計評価点3.218点)を受験したが、いずれも不合格とされた。A方式では、被告が原告の社会人勤務期間を浪人期間とみなした上で「男3浪C以下不合格」という内部基準を適用し、併用方式では、合否判定基準(1〜25位の男性は2.5点以上で合格)を大きく上回る成績であったにもかかわらず、面接官1名のC-評価と原告の年齢を考慮して不合格とした。なお、募集要項には年齢や浪人年数を合否判定の考慮要素とする旨の記載は一切なかった。 原告は、不合格判定が裁量権の逸脱・濫用であるとして慰謝料等を、また、記者会見で被告が「特殊な事情があった」と発言したことが名誉感情の侵害であるとして、合計約5831万円の損害賠償を請求した。 【争点】 主な争点は、①本件不合格判定が被告の裁量権を逸脱・濫用する違法な不法行為に該当するか、②被告の不合格発表及び記者会見における「特殊な事情」発言が不法行為を構成するか、③損害額の算定である。被告は、私立大学の入学者選抜における広範な裁量や、浪人年数を考慮することの合理性を主張した。 【判旨】 裁判所は、私立大学にも入学者選抜について広範な裁量が認められるとしつつ、私立大学は公の性質を有する教育機関として、憲法の平等原則及び大学設置基準が求める「公正かつ妥当な方法」を尊重する責務を負うと判示した。募集要項に年齢や浪人年数を考慮要素とする旨の記載がない場合、出願者との関係では原則としてこれらの属性を考慮しないことを内容とする募集を行ったものと解されるとし、出願者が年齢等を基準に一律に不利益な取扱いをされないとの期待は法的保護に値すると認定した。 A方式不合格判定については、浪人年数により一律に不利益な取扱いを行う合否判定基準の適用は被告の裁量を逸脱し違法であると判断した。併用方式不合格判定についても、合否判定基準を大きく上回る原告に対してのみ基準を適用せず年齢を理由に不合格としたことは裁量の逸脱であると認めた。記者会見における「特殊な事情」発言については、原告の名誉感情を傷つける社会通念上許される限度を超えた侮辱行為に該当するとした。 損害額については、原告が請求した約5831万円のうち、慰謝料150万円(不合格判定)、10万円(記者会見発言)、受験料・交通費約6万円、弁護士費用15万円の合計181万0920円を認容した。他大学への進学費用等は相当因果関係を欠くとして棄却した。