商標移転登録抹消登録等請求事件
判決データ
AI概要
【事案の概要】 本件は、老舗和洋菓子店「千鳥屋」の商標権をめぐる紛争である。千鳥屋は寛永7年(1630年)に創業され、昭和初期以降、創業家の兄弟がそれぞれ東京・福岡・兵庫等を拠点に洋和菓子の製造販売事業を展開していた。東京を中心に事業を行っていた旧千鳥屋総本家(旧総本家)が民事再生手続を申し立て、スポンサーとなった原告が本件事業を6億7000万円で譲り受けた。その際、原告は旧総本家の創業家から本件商標権を含む50件の商標権を1円で譲り受けた後、被告P1(創業家の孫)に本件商標権を含む5件の商標権を1円で譲渡し、被告P1は原告に対して11件の商標権について無償での専用使用を許諾する契約(専用使用権許諾契約)を締結した。同契約には、被告P1が原告の事前承諾なく商標権を第三者に譲渡してはならない旨の特約が付されていた。ところが、被告P1は原告に無断で、被告P2及び被告千鳥饅頭総本舗(被告総本舗)に対し本件商標権の持分各3分の1を無償譲渡し、一部移転登録がなされた。原告は、被告P2及び被告総本舗に対し移転登録の抹消登録手続を、被告P1に対し専用使用権の設定登録手続(主位的請求)又は債務不履行に基づく7000万円の損害賠償(予備的請求)を求めた。 【争点】 (1) 本件移転登録が被告P1と被告P2及び被告総本舗の合意に基づくものか、(2) 原告が宗家への事業譲渡により専用使用権設定登録手続を求める地位を喪失したか、(3) 被告P1の債務不履行による損害の発生及びその額。 【判旨】 裁判所は、原告の請求をいずれも棄却した。争点(1)について、被告P1が被告P2及び被告総本舗に対し本件商標権の持分各3分の1を無償で譲渡する旨の合意を書面で行い、これに基づき移転登録がなされたと認定した。原告は譲渡禁止特約が物権的効力を有すると主張したが、商標権の設定登録が権利の発生要件であり専用使用権の登録も効力発生要件であることから、登録を伴わない契約当事者間の合意が移転登録の効力に優越するとは考え難いとして退けた。移転登録により商標権は被告らの共有となり、被告P2及び被告総本舗が専用使用権設定に承諾する見込みがないことから、被告P1の専用使用権設定登録手続債務は社会通念上履行不能になったと判断した。損害賠償請求についても、創業家が本件商標権と共通する商標を長年共有・使用してきた経緯や先使用権の存在を踏まえると、原告が本件商標権を独占的に使用できる状況にはなく、移転登録後も通常使用を許諾され得たと認められることから、移転登録の前後で原告の具体的な利益状況に変化があったとは認められないとして、損害の発生を否定した。また、尋問期日の5日前に初めてなされた錯誤無効の主張については、時機に後れた攻撃方法として却下した。