AI概要
【事案の概要】 本件は、アニメーション制作を業とする個人事業主である原告が、出版社である被告に対し、著作権(公衆送信権)及び著作者人格権(氏名表示権)の侵害を理由に損害賠償を求めた事案である。 原告は、てんかん専門医であるC医師の紹介により、被告からてんかん発作の13症例に関するアニメーション映像(本件映像)の制作を委託され、平成26年2月に納品した。本件映像は、被告が発行した書籍「アニメとイラストでわかるてんかんのすべて」に付属するDVDに収録された。被告は、平成29年8月から令和2年12月まで約3年4か月間、YouTube上で本件映像の複製映像を原告の氏名等を表示せずに公開し、再生回数は164万回以上に達した。原告は、著作権法114条3項に基づく損害400万円、逸失利益100万円、慰謝料100万円及び弁護士費用60万円の合計660万円の支払を請求した。 【争点】 主な争点は、(1)本件映像の著作物性、(2)本件映像の著作者は誰か、(3)著作権法29条1項に基づく著作権の帰属先(映画製作者は誰か)、(4)著作権の黙示の譲渡の有無、(5)著作者名表示の省略の可否、(6)故意又は過失の有無、(7)損害額であった。特に、てんかん発作の動きという医学的事実をアニメーション化した映像に著作物性が認められるか、また原告・被告・C医師のうち誰が著作者・映画製作者に当たるかが中心的に争われた。 【判旨】 裁判所は、まず著作物性について、てんかん発作の動き自体は医学的に正確な表現に収斂するため創作性を認められないとしつつも、発作が起こる人物の体格・人相・着衣・所在場所・背景の造作・画角等の選択や、13症例の選択・配列には作成者の個性が発揮されているとして、本件映像の著作物性を肯定した。 著作者については、原告は絵コンテからレイアウト、原画、動画、彩色、撮影、音響、編集の全工程に関与しており、本件映像の全体的形成に創作的に寄与した者と認定した。同時に、C医師も、症例の選択・順序の決定、人物の性別・年齢等の指示、視聴者が発作の動きに集中できるよう背景等を目立たせすぎないとの一貫したコンセプトに基づく指示、完成判断を行ったとして、共同著作者と認めた。他方、被告代表者やD・E医師は著作者に当たらないとした。 著作権の帰属については、本件映像は映画の著作物に該当し著作権法29条1項が適用されるとした上で、映画製作者はC医師であると認定した。C医師が制作を企画し、製薬会社への営業活動により制作費調達のリスクを負担していたことなどが考慮された。この結果、著作権はC医師に帰属し、原告の著作権侵害に基づく損害賠償請求は認められなかった。 もっとも、氏名表示権侵害については、共同著作物の著作者人格権の「行使」(著作権法64条1項)とは権利内容の具体的実現をいい、第三者による侵害に対する慰謝料請求はこれに当たらないとして、原告単独での請求を認めた。損害額については、原告の創作的寄与の内容・程度、公開期間・再生回数、被告の訴訟態度等を総合考慮し、慰謝料50万円及び弁護士費用5万円の合計55万円を認容した。