被告人Aに対する脅迫、被告人Bに対する強要未遂被告事件
判決データ
AI概要
【事案の概要】 労働組合D支部の執行委員である被告人A及び組合員である被告人Bが、株式会社Eの取締役Fに対し、同社が日雇運転手として雇用する組合員Gの子の保育所継続利用に必要な就労証明書の作成・交付を求めた事案である。被告人両名らは、平成29年11月27日から12月4日にかけて、繰り返しE社事務所を訪問して就労証明書の作成等を執ように要求し、Fが高血圧緊急症で体調不良となった後も要求を続け、事務所周辺に組合員をたむろさせて従業員らの動静を監視し、さらに12月4日には怒号しながら書面を机にたたき付けるなどした。第1審は被告人両名について強要未遂罪の共同正犯を認定したが、控訴審(大阪高裁)は、E社には就労証明書を作成等すべき社会生活上の義務があるとした上で、一連の行為の大部分は脅迫に該当しないとして第1審判決を破棄し、被告人Aについてのみ脅迫罪の共同正犯を認定し、被告人Bを無罪とした。検察官が上告した。 【争点】 控訴審が第1審の強要未遂罪の認定を事実誤認として破棄したことの当否。具体的には、(1)E社に就労証明書を作成等すべき義務があるとしても強要罪が成立し得るか、(2)控訴審は第1審の事実認定の不合理性を十分に示したといえるか、が争われた。 【判旨】 最高裁第一小法廷は、裁判官全員一致の意見で原判決を破棄し、大阪高裁に差し戻した。まず、E社はGに対し、労働契約に付随する信義則上の義務として就労証明書を作成等すべき義務を負っていたと認め、第1審が同義務を否定した点には事実誤認があるとした控訴審の判断は是認できるとした。しかし、人に義務の履行を求める場合であっても、その手段として用いられた脅迫が社会通念上受忍すべき限度を超える場合には強要罪が成立し得ると判示した。その上で、控訴審が義務の有無に関する事実誤認を指摘しただけで、第1審判決が前提とするその余の事実関係(脅迫該当性等)について認定の不合理性を十分に検討しないまま第1審判決を破棄したことは、刑訴法382条の解釈適用を誤ったものであり、この違法は判決に影響を及ぼし、原判決を破棄しなければ著しく正義に反するとした。