殺人、殺人未遂、住居侵入、建造物侵入、銃砲刀剣類所持等取締法違反
判決データ
AI概要
【事案の概要】 被告人は、平成29年7月16日早朝、自宅及びその周辺において、祖母(当時83歳)及び近隣女性(当時79歳)を殺害し、祖父(当時83歳)・母(当時52歳)・別の近隣女性(当時65歳)に重傷を負わせた殺人・殺人未遂等の事件である。被告人は、高専時代の同級生女性Aの幻声やメッセージを受け取っていると信じ、Aとの結婚のための試練として「神社に行くまでに出会った哲学的ゾンビを倒せ」との指示を受けたと解釈し、被害者らを人間ではなく「哲学的ゾンビ」(人間と同じ姿形だが自我や感情のない存在)であると認識して犯行に及んだとされる。原審(裁判員裁判)は、被告人が犯行当時心神喪失状態にあった合理的疑いが残るとして無罪を言い渡した。検察官がこれを不服として控訴した。 【争点】 被告人の犯行当時の責任能力の有無が争点である。起訴前に実施された二つの精神鑑定のうち、甲鑑定は、被告人が妄想型統合失調症にり患し、被害者らを哲学的ゾンビと確信して人を殺害している認識がなく、精神症状の圧倒的影響下にあったとして心神喪失を示唆した。乙鑑定は、被告人には妄想に対する一定の批判力が残っており、犯行前に「ほんまか」と疑義を呈し、犯行直後には現実的な認識を示す発言をしていることなどから、精神症状の影響は圧倒的とまではいえないとして心神耗弱にとどまるとした。 【判旨】 大阪高裁は控訴を棄却し、原判決の無罪を維持した。まず鑑定の信用性について、原判決が乙医師の面接不足のみを理由に鑑定内容を検討せず排斥したのは形式的に過ぎるとしつつ、両鑑定の内容に踏み込んで比較検討した。その結果、被告人の「ほんまか」「信じるで」等の発言は妄想全体への疑念ではなく試練の内容確認とも解釈でき、家族への攻撃のためらいも哲学的ゾンビの確信と矛盾しないとした。犯行前後にパジャマのまま出発し失禁しながら神社に向かうなど精神症状の急激な悪化を示す異常な行動も認められ、被害者が人ではないとの妄想を確信していた疑いは払拭できないと判断した。被告人が被害者を人ではないと認識していたのであれば殺人の禁止という規範に直面しておらず、善悪の判断能力に合理的疑いが生じるとして、心神喪失状態にあったとの疑いは容易に否定できないと結論づけた。