AI概要
【事案の概要】 本件は、被告学校法人が設置する高校の野球部に部活動奨学生として入学した原告が、野球部の寮内で複数の部員から継続的ないじめを受けた事案である。原告は、同学年や上級生の部員らから「バー外」(メンバー外の意味)等の侮蔑的なあだ名をつけられ、「黙れ、殺すぞ」「死ね」などと罵倒されたほか、私服や帽子を風呂で濡らされ、食器用洗剤や熱湯をかけられるなどの行為を受け、2度にわたり寮から自宅に帰宅した。その後、原告に対する不適切な指導を行ったとされるコーチが新監督に就任したことを契機に退寮し、転学を決意した。原告は、被告学校法人に対し、いじめ防止対策推進法に基づく重大事態調査組織の設置を怠った安全配慮義務違反、転入学手続における協力義務違反、高野連への報告義務違反を理由に慰謝料200万円を請求し、被告愛知県高野連に対しては調査義務違反を理由に10万円を請求した。 【争点】 ①被告学校法人の安全配慮義務違反の有無、②転入学協力義務違反の有無、③高野連への報告義務違反の有無、④被告愛知県高野連の調査確認義務違反の有無、⑤損害及び因果関係が争われた。特に、転入学手続において被告学校法人が転学先の高校に対し、原告の野球部入部希望の意向を正確に伝えたか否かが重要な争点となった。 【判旨】 裁判所は、原告が寮内で受けた行為はいじめ防止対策推進法上の「いじめ」に該当すると認定した。しかし、重大事態調査組織の不設置については、被害の内容や程度に照らし重大事態に当たらないとの学校側の判断が直ちに不合理とはいえず、退寮後約1か月以内に調査が開始されていることも踏まえ、安全配慮義務違反は否定した。高野連への報告義務違反及び愛知県高野連の調査義務違反についても、原告との関係で法的義務を負う根拠がないとして否定した。他方、転入学協力義務違反については、被告学校法人が転学先の高校に対し「転学優先」と伝えたことにつき、原告の母から転学優先の意向を確認した事実は客観的証拠と整合せず認められないとした上で、被告学校法人は原告が野球部入部を強く希望していることを認識しながら、転学先に野球部入部を断念したとの誤った情報を伝えたと認定し、在学契約の付随義務としての正確な情報伝達義務に違反したと判断した。もっとも、正確に伝えていれば転学先が転入学試験自体を実施しなかった蓋然性が高いこと等から、野球を継続できなかったこと自体の慰謝料は認めず、選択の機会を奪われた精神的苦痛等として慰謝料10万円の限度で認容した。