AI概要
【事案の概要】 被告人は、令和元年12月下旬頃から令和2年1月8日までの間に、覚せい剤であるフェニルメチルアミノプロパン又はその塩類を自己の身体に摂取し、覚せい剤を使用したとして起訴された。被告人の尿からは覚醒剤成分が検出されていた。事件の経緯として、警察官らは旅券法違反の被疑事実で捜索差押許可状の発付を受け、被告人使用車両の捜索を実施したところ、車内から覚醒剤様の白色結晶が発見され、予試験で陽性反応が出たため、被告人は覚せい剤取締法違反(所持)で現行犯逮捕された。その身柄拘束中に任意採尿が行われ、尿から覚醒剤成分が検出された。これに対し弁護人は、捜索時に被告人が車内で飲んだペットボトルの水に覚醒剤が混入していたことが原因であり、被告人には覚醒剤使用の故意がなかったと主張した。 【争点】 第一の争点は、被告人の尿に関する鑑定書等が違法収集証拠に当たるか否かである。弁護人は、旅券法違反の名目でもっぱら薬物発見目的で行われた別件捜索差押えであること、覚醒剤について無令状かつ無承諾で予試験が実施されたことを主張した。第二の争点は、被告人に覚醒剤使用の故意が認められるか否かである。弁護人は、逮捕後に弁護人が発見した覚醒剤混入ペットボトルの水を捜索時に飲んだことが原因であると主張した。 【判旨(量刑)】 裁判所は、第一の争点について、旅券法違反自体が法定刑5年以下の懲役等の相応に重い罪であり、捜索の必要性が認められることから別件捜索差押えには当たらないとした。予試験についても、被告人が警察官の行為を制止せず黙示的に承諾していたと評価し、重大な違法はないと判断した。なお、捜査担当の警察官が秘匿カメラのDVDを2回フォーマットし再生不能にしたことについて、適正な捜査手続に対する信頼を大きく害する事態であると厳しく指摘した。第二の争点について、裁判所は、覚醒剤混入ペットボトルの飲み口から被告人のDNA型が検出されたこと、ペットボトル内の水溶液から車内の注射器に付着していた女性のDNA型と矛盾しない人血が検出されたこと、製造年月日や出荷履歴が弁解と整合することなどから、被告人の弁解に沿う客観的証拠が相応に存在すると認定した。検察官が依拠した法医中毒学の専門家の証言についても、尿中覚醒剤濃度、メタンフェタミンとアンフェタミンの濃度比、排せつ率のいずれの観点からも、前提となる実験データの被験者数の少なさや個人差の大きさ等から、被告人の弁解がおよそあり得ないと断じることはできないとした。以上から、被告人が覚醒剤混入ペットボトルの水を意図せず飲んだとの弁解を排斥できず、覚醒剤使用の故意は認められないとして、無罪を言い渡した(求刑:懲役4年)。