AI概要
【事案の概要】 本件は、精肉及び惣菜の販売事業を営む原告(株式会社荒川肉店)が、被告(有限会社荒川商店)に対し、会社法21条1項に基づく競業行為の差止めを求めた事案である。原告と被告の代表者はいとこ同士の関係にあり、元々被告の事業は、原告代表者の父らが運営する精肉店部門(Aグループ)と、被告代表者の父らが運営する焼肉店部門(Cグループ)に分かれていた。平成28年11月1日を効力発生日として、被告から原告に精肉販売に関する事業が譲渡された。しかし被告は、事業譲渡後も甲市内に精肉・惣菜を販売する直売所を開店し、さらに隣接する乙市の駅ビルにも持ち帰り専門店を出店して牛肉弁当や惣菜を販売していた。原告は、これらの行為が会社法21条1項の競業避止義務に違反するとして、令和18年10月31日までの間、甲市及び乙市における精肉・惣菜販売事業の差止めを求めた。 【争点】 (1) 被告は本件事業と同一の事業を行っているか。被告は、譲渡対象の事業は来店客への一対一の対面販売に限定された「町の肉屋営業」であり、冷凍加工肉のセルフ方式販売は同一事業に当たらないと主張した。(2) 競業避止義務を免除する「別段の意思表示」の有無。被告は、事業譲渡契約の趣旨はAグループとCグループの事業分離にあり、Cグループが従前行っていた事業については競業避止義務を負わない旨の黙示の合意があったと主張した。(3) 原告の請求が信義則違反又は権利濫用に当たるか。被告は、原告側が駐車場賃貸借契約を早期に解除し、また建物を第三者に売却して賃料が高騰したことが信義則に反すると主張した。(4) 差止めの必要性。 【判旨】 裁判所は原告の請求を全部認容した。争点(1)について、精肉・惣菜販売事業において対面販売かセルフ方式かの違いは市場や顧客の競合を左右するものではなく、販売方法の違いにかかわらず同一の事業に当たると判断した。契約書には販売方法による限定が明記されておらず、双方に弁護士が関与した交渉を経て詳細な契約書が作成された経緯に照らし、販売方法の限定に関する合意があったとは認められないとした。争点(2)について、「別段の意思表示」を裏付ける客観的証拠がなく、競業避止義務の範囲は重要な交渉事項であるから書面化されていないのは不自然であるとして排斥した。争点(3)について、10年間の賃貸借維持合意の存在を認める証拠がないとして権利濫用の主張を退けた。争点(4)について、甲市のみならず隣接する乙市でも市場・顧客の競合が認められ、差止めの必要性を肯定した。