助成金不交付決定処分取消請求事件
判決データ
AI概要
【事案の概要】 映画製作会社である原告が、独立行政法人日本芸術文化振興会(被告)の理事長に対し、劇映画「宮本から君へ」の製作活動について文化芸術振興費補助金による助成金の交付を申請したところ、同映画の出演者の一人がコカイン使用により有罪判決を受けたことを理由に、「国の事業による助成金を交付することは公益性の観点から適当ではない」として不交付決定処分を受けたため、その取消しを求めた事案である。原告は平成30年11月に助成金交付要望書を提出し、平成31年3月に外部有識者で構成される基金運営委員会の答申を経て交付内定を受けていたが、内定後に当該出演者の有罪判決が確定したことを受けて不交付決定がなされた。第1審は処分を取り消したが、控訴審は処分を適法と判断して取消請求を棄却した。 【争点】 出演者の薬物犯罪による有罪判決確定を理由とする助成金不交付決定が、理事長の裁量権の範囲を逸脱し又はこれを濫用したものとして違法か。具体的には、薬物乱用防止という公益や助成金に対する国民の理解といった事情を、助成金交付に係る判断において消極的な考慮事情として重視することが許されるかが問題となった。 【判旨】 最高裁は原判決を破棄し、被告の控訴を棄却した(全員一致)。まず、助成金の交付に係る判断は理事長の裁量に委ねられているとしつつ、助成金が表現行為に係る活動を対象とするものであることに着目し、芸術的観点から助成対象とすることが相当な活動について、公益を理由に交付を拒否することが広く行われれば、申請や表現行為の内容に萎縮的な影響が及ぶ可能性があり、これは憲法21条1項の表現の自由の保障の趣旨に照らし看過し難いと指摘した。そのうえで、表現行為の内容に照らして一般的な公益が害されることを消極的考慮事情として重視し得るのは、当該公益が重要であり、かつ害される具体的な危険がある場合に限られるとの判断枠組みを示した。本件では、助成金交付により出演者が直接利益を受けるわけではなく、国が薬物犯罪に寛容であるとのメッセージを発したと受け取られること自体が想定し難いこと、薬物に対する許容的態度が広まる根拠も見当たらないことから、薬物乱用防止という公益が害される具体的危険はないとし、本件処分は重視すべきでない事情を重視した結果、社会通念に照らし著しく妥当性を欠き、裁量権の逸脱濫用として違法であると判断した。