嘱託殺人、有印公文書偽造
判決データ
AI概要
【事案の概要】 被告人(医師)は、医師仲間の共犯者(甲)と共謀し、2件の犯行に及んだ。第1に、海外での安楽死を希望するALS患者Aの依頼を受け、国立大学病院医師名義のメディカルレポート2通に虚偽の署名をして偽造した(有印公文書偽造)。第2に、ALS患者B(当時51歳)の嘱託を受け、甲と共にB方を訪問し、甲がBの胃ろうからペントバルビタールを注入してBを殺害した(嘱託殺人)。Bは平成24年にALSと診断され、本件当時は眼球・瞼・顔面の一部しか動かせず、24時間体制の介護を受けていた。被告人は、Bから振り込まれた報酬130万円を犯行前に全額費消し、犯行当日はヘルパーの対応役を担って甲の殺害行為を可能にした。 【争点】 主な争点は、(1)有印公文書偽造における公文書該当性と被告人の共同正犯の成否、(2)嘱託殺人における被告人と甲との共謀の有無であった。特に嘱託殺人について、弁護人は、被告人は甲から事前に殺害計画を知らされておらず共謀は成立しない、仮に関与があったとしても幇助犯にとどまると主張した。被告人自身も、甲から殺害計画は聞いておらず、書類のやり取りか渡航相談だと考えていた旨供述した。 【判旨(量刑)】 裁判所は、有印公文書偽造について、国立大学法人の附属病院職員は公務員とみなされる(国立大学法人法19条)ことから公文書該当性を肯定し、被告人が偽造行為たる署名を自ら行っている以上、共同正犯の罪責を負うと判断した。嘱託殺人については、甲がヘルパーに犯行を気付かれないようにすることを主要な目的として被告人に同行を依頼したと認定し、甲が被告人に殺害計画を伝えず突如殺害に及んだとは到底考え難いとして共謀を認定した。被告人の否認供述については、130万円もの報酬を受領しながら単なる書類のやり取りと思っていたとは認められないこと、捜査段階での供述内容に核心部分の変遷があること等から信用できないとした。量刑については、計画性が高く医師の知識を悪用した悪質な犯行態様である一方、Bの真摯な嘱託に基づく自殺幇助に近い側面やBが苦痛なく死亡したこと等を考慮し、求刑懲役6年に対し、被告人を懲役2年6月の実刑とした。なお、被告人は別件の殺人罪で懲役13年の判決を受けている(控訴中)ことも量刑上考慮された。