損害賠償請求控訴事件
判決データ
AI概要
【事案の概要】 近畿財務局の上席国有財産管理官であったAは、平成29年2月以降、いわゆる森友学園問題に関連して、理財局の指示により決裁文書の改ざん作業に従事させられた。Aは改ざん指示に強く抵抗したものの、極度の長時間労働や精神的負荷により同年7月に鬱病を発症し、自殺するに至った。Aの妻である控訴人は、当時の理財局長であった被控訴人に対し、(1)決裁文書の改ざんを指示してAを自殺に至らしめた故意の不法行為、(2)Aの死亡後、控訴人への説明・謝罪義務違反を理由として、民法709条に基づき1650万円の損害賠償を求めた。なお、国に対する国家賠償請求訴訟では、国が請求を認諾している。 【争点】 (1)国家賠償法1条1項が適用される場合に公務員個人の損害賠償責任が認められるか。控訴人は、改ざん指示は職務権限の逸脱・濫用であり国賠法の適用外であると主張し、仮に適用されるとしても、故意・重過失がある場合に公務員個人の責任を認める「制限的肯定説」や、悪質な権限濫用事案を最高裁判例の射程外とする「権限濫用説」により責任を肯定すべきと主張した。また、公務員個人の責任を否定する解釈は憲法17条・14条等に違反するとも主張した。 (2)被控訴人が退職後も控訴人に対して改ざん経緯の説明・謝罪をすべき信義則上の義務を負うか。 【判旨】 控訴棄却。裁判所は、被控訴人の改ざん指示は理財局長の「職務を行うについて」された行為に該当し、国賠法1条1項が適用されると判断した。職務権限の逸脱・濫用があっても、職務と社会通念上の関連性がある以上、同項の適用は排除されないとした。 公務員個人の損害賠償責任については、最高裁判例がこれを否定する立場を確立しており、その変更は相当でないと判断した。その理由として、(1)国賠法1条2項が求償権を故意・重過失に限定した趣旨は公務員の萎縮防止にあり、この観点は同条1項の解釈でも同様に妥当すること、(2)公務員個人の責任を認めれば応訴負担が増大し萎縮効果が生じるおそれがあること、(3)被害者は国に対して損害賠償請求が可能であり救済に欠けないこと、(4)公務員に対する制裁・抑止は求償権行使・懲戒処分・刑事処分等で実現すべきことを挙げた。もっとも、本件では求償権が行使されず刑事処分もされていないことについて、制裁や抑止の観点から相当かつ十分かは「議論があり得る」と付言した。 説明・謝罪義務違反については、被控訴人が道義的には誠意を尽くした説明・謝罪をすることが「あってしかるべき」としつつも、法的義務を課すことは困難であるとして請求を棄却した。