AI概要
【事案の概要】 被告会社(倉敷紡績株式会社)に勤務していた原告が、上司であった被告A(執行役員)から日常的にパワーハラスメントを受けたことにより退職を余儀なくされ、精神的苦痛を受けたとして、被告Aに対しては民法709条(不法行為)、被告会社に対しては同法715条1項(使用者責任)に基づき、慰謝料600万円及び弁護士費用60万円の合計660万円の連帯支払を求めた事案である。原告は平成31年2月に被告会社に入社し、令和3年4月に課長補佐に昇格したが、同年2月に着任した被告Aから「アホ」「ボケ」「辞めさせたるぞ」等の暴言を日常的に浴びせられ、椅子の脚を蹴られる、新入社員の前で「無能な管理職」と罵倒される、フレックスタイム制度や在宅勤務の利用を抑制される等の行為を受けた。原告は同年7月に転職活動を開始し、同年9月30日に被告会社を退職した。 【争点】 ①被告Aの言動が不法行為に該当するか、②原告の損害額及び因果関係(特に慰謝料算定において逸失利益を考慮すべきか)が争点となった。被告Aは一部の言動を否認し、業務上必要かつ相当な範囲を超えたものではないと主張した。被告会社は一部のパワハラ該当性を認めつつ、使用者責任を負うこと自体は争わなかった。原告は、被告会社で60歳まで就労すれば転職先より2288万円余り多くの収入を得られたはずであるとして、逸失利益も慰謝料算定に考慮すべきと主張した。 【判旨】 裁判所は、被告Aの「アホ」「ボケ」「辞めさせたるぞ」等の日常的な暴言、椅子を蹴る行為、新入社員の前での「無能」発言、フレックスタイム等の制度利用抑制については、社会通念上許容される限度を超え相当性を欠くものとして不法行為の成立を認めた。一方、電話の3コール以内応答の指示とその際の叱責については、注意・指導として社会通念上許容される範囲内であるとして不法行為に当たらないとした。損害額については、原告の退職原因が被告Aのパワハラにあったと認めつつも、原告の過去の転職歴(複数回の転職を経て被告会社に入社、在籍期間約2年半)に照らし、60歳まで被告会社で就労することが確実であったとはいえないとして逸失利益の考慮を否定し、慰謝料50万円及び弁護士費用5万円の合計55万円の限度で請求を認容した。