AI概要
【事案の概要】 原告(韓国の製薬会社)は、「ウデナフィル組成物を用いてフォンタン患者における心筋性能を改善する方法」に関する国際特許出願について拒絶査定を受け、拒絶査定不服審判を請求したが、特許庁は審判請求不成立の審決をした。本件は、原告が同審決の取消しを求めた審決取消訴訟である。フォンタン手術とは、機能的単心室先天性心疾患の小児に対する緩和的外科処置であり、術後は時間経過とともに運動耐容能が低下する。本願発明は、PDE5阻害剤であるウデナフィルを1回87.5mg・1日2回投与することで、フォンタン患者の最大努力時VO2(酸素摂取量)により測定される運動耐容能を改善する医薬組成物に関するものであった。特許庁は、本願明細書が実施可能要件(特許法36条4項1号)及びサポート要件(同条6項1号)を満たさないとして拒絶審決をした。 【争点】 本願発明が実施可能要件及びサポート要件を満たすか。原告は、明細書記載の臨床試験(実施例3)において5名中2名に最大VO2の正の変化が認められたこと、ヒト臨床試験を要する発明では出願前に有意差を伴うデータを得ることは非現実的であること等を主張した。被告(特許庁長官)は、変化スコアの平均値0.2に対し標準偏差±5.0と極めてばらつきが大きく、改善率も明細書記載の最低値1%に満たないこと、薬剤非投与の対照群でも正の変化を示す被験者がいること等を主張した。 【判旨】 請求棄却。裁判所は、医薬用途発明の実施可能要件について、薬理データ又はこれと同視し得る程度の事項により当該医薬が用途に利用できることを当業者が理解できる記載が必要であるとの一般論を示した上で、本件処方のコホートでは変化スコア平均値がベースラインの0.71%増にとどまり明細書記載の最低改善値1%にも満たないこと、標準偏差が平均値に比して非常に大きいこと、5名中3名でむしろ最大VO2が悪化していること、対照群を含む全6コホート間で変化スコアに有意差がないこと(p=0.85)、同じPDE5阻害剤でもタダラフィルでは運動耐容能が不変であった先行知見があること、ウデナフィルが運動耐容能を改善する作用機序の記載や技術常識もないことを総合的に認定し、試験結果全体をみれば本件処方が運動耐容能の改善に使用できることを当業者が理解できるとはいえないと判断した。