AI概要
【事案の概要】 本件は、建築工事等を目的とする原告が、元従業員である被告P1及び同人が代表取締役を務める被告会社に対し、不正競争防止法に基づく損害賠償を求めた事案である。原告は型枠工事の下請業者であり、元請業者からの依頼に基づいて見積書を作成していた。被告P1は原告の西脇支社に約15年間勤務し、令和2年1月に解雇されたが、在職中から自身が代表者である被告会社を設立・運営していた。原告は、被告P1が原告作成の見積書5通に記載された顧客情報及び価格情報(営業秘密)を不正に取得・使用し、被告会社に開示して同社名義の見積書を作成させ、原告の受注機会を奪ったと主張した。不正競争防止法は、事業者間の公正な競争を確保するため、営業秘密の不正取得・使用・開示を「不正競争」と定義し(同法2条1項4号〜9号)、その成立には当該情報が秘密として管理されていること(秘密管理性)、有用であること(有用性)、公然と知られていないこと(非公知性)の3要件を満たす「営業秘密」(同法2条6項)に該当する必要がある。原告は約1964万円の損害賠償を請求した。 【争点】 主要な争点は、(1)本件見積書記載の情報の営業秘密該当性(秘密管理性・有用性・非公知性)、(2)被告らの行為の不正競争該当性(不正取得行為の有無、図利加害目的での使用・開示の有無)、(3)損害の発生及び額であった。特に秘密管理性について、原告は見積書を代表者が一元的に管理し従業員や外部業者には了承なく明らかにしていないと主張したのに対し、被告らは見積書の情報は地域の業者なら誰でも算出可能であり固有の秘密ではないと反論した。 【判旨】 裁判所は、原告の請求をいずれも棄却した。まず秘密管理性について、本件見積書には営業秘密である旨の表示がなく、データファイルにパスワード等のアクセス制限措置が施されていなかったこと、就業規則に秘密保持規定がなく被告P1との間で秘密保持契約も締結されていなかったこと、見積書記載情報が営業秘密であることの注意喚起や研修等の教育的措置も行われていなかったこと、使用後のデータ削除指示もなかったことを認定し、原告の企業規模を考慮しても特別な費用を要さず容易に採り得る最低限の秘密管理措置すら採られていなかったと判断した。さらに不正競争該当性についても、見積書データは業務遂行のため被告P1に送信されたものであり不正取得行為とはいえないこと、被告らが価格情報を使用・開示したと認めるに足りる証拠がないことを指摘し、不正競争防止法2条1項4号・5号及び7号・8号のいずれにも該当しないと結論づけた。