現住建造物等放火被告事件
判決データ
AI概要
【事案の概要】 被告人は、北海道石狩市内の木造2階建住宅に実父及び実母と居住していた者である。被告人はかねてから気分変調症の影響等により自殺願望を有していたところ、両親との関係がうまくいかない中で実父の発言を「死ねるものなら死んでみろ」という趣旨に曲解し、一酸化炭素中毒によって死のうと考えた。令和3年8月23日午前3時40分頃、被告人は、灯油を染みこませたバスタオル5枚を1階居間から階段上に並べて配置した上、2階の階段付近においてライターで点火して放火した。火は階段等に燃え移り、同家屋の階段及び1階居間床面の合計約1.464平方メートルを焼損した。犯行時、実母は2階で就寝中であったが、幸いにも死傷者は出ず、近隣家屋への延焼も生じなかった。現住建造物等放火罪(刑法108条)は、建造物の公共的性格に鑑みて法定刑が死刑又は無期若しくは5年以上の懲役と極めて重く定められており、仮に延焼や人的被害が生じていれば量刑上も重大な結果が問われる事案であった。 【量刑の理由】 裁判所は、まず犯行態様について、深夜の住宅密集地における放火であり、2階で就寝中の母親や近隣住民の生命・財産を脅かす危険な犯行であったと認定した。一方で、ありあわせの物を用いた犯行であり、使用した灯油も比較的少量であったことから、周到に準備した計画的犯行とはいえず、稚拙な面がみられると指摘した。放火から約1時間経過後も火炎の高さは50センチメートル程度にとどまり、消防によって水圧を上げずに少量の放水で鎮火された点は、犯行態様の危険性が非常に高いものではなかったことを示すとした。犯行動機については、気分変調症にり患していた被告人が両親との関係の悪化を背景に短絡的に放火を選択したものであるが、精神状態の影響は被告人のために考慮すべきとした。その上で、類似事案の量刑傾向に照らし酌量減軽をした上で懲役3年が相当とし、更生環境として、心療内科への継続通院、両親との同居による良好な関係回復、近隣住民も処罰を望んでいないことなどを考慮して刑の執行を猶予した。ただし、重大な被害を生じさせかねなかったことから猶予期間は上限の5年間とし、保護司等との面談による公的機関の支援監督が必要と判断して保護観察を付した(求刑懲役5年)。