AI概要
【事案の概要】 美術商である原告が、著名な「もの派」系美術家であった亡C(訴訟係属中に死亡)の相続人である被告に対し、訴訟上の和解(本件和解)の禁止条項違反を理由に違約金及び損害賠償を求めた事案である。原告と亡Cは、昭和55年以降、亡Cの作品を原告が独占的に取り扱う関係にあったが、平成13年にレンバッハハウス市立美術館での展示会に際し、亡Cの全立体作品309点を収録したカタログ・レゾネが製作された。その後、両者の関係が悪化し、亡Cの作品を扱う画廊が、カタログ・レゾネに未掲載の作品につき1963年から2001年の間に制作されたとする年代表記をしたことから前訴が提起され、平成28年に訴訟上の和解が成立した。本件和解では、亡Cが原告の書面による事前承諾なく、カタログ・レゾネに未掲載の立体作品を上記期間に制作した作品として公表しないこと等の禁止条項が定められ、違反1点につき200万円の違約金が約された。本件和解後、3つの画廊がウェブサイト上で合計9点の作品につき禁止条項に抵触する年代表記を行ったため、原告は違約金1800万円及び作品価値下落による損害金約2億円を請求した。 【争点】 主要な争点は、(1)本件禁止条項は亡C本人の行為のみを対象とするか、画廊等の第三者の行為も含むか、(2)禁止条項にいう「公表」は著作権法4条の公表概念に限定されるか、(3)各作品について亡Cに禁止条項違反が認められるか、(4)損害額の5点であった。原告は、画廊は亡Cの履行補助者であり、民法99条・109条、商法504条の趣旨に照らし亡Cが責任を負うと主張した。被告は、禁止条項の文言上第三者の行為は対象外であり、各画廊は独自の判断で作品を掲載したにすぎないと反論した。 【判旨】 裁判所は、訴訟代理人たる弁護士が関与して成立した訴訟上の和解条項は、特段の事情がない限りその文言どおりに解すべきとする最高裁判例(最判昭44・7・10)に依拠し、禁止条項は亡C本人を主語とするものであって、第三者の行為を直ちに禁止するものではないとした。他方、「公表」の意義については著作権法4条に限定されないと判断した。その上で、作品ごとに亡Cの関与を個別に検討し、作品1・2については、亡Cが画廊と密接な関係を有し、年代表記の決定に関与していた上、作品2は亡Cが購入者の希望に応じ一から制作するコミッションワークとして販売が予定されていたことから、亡Cも公表の主体と認め禁止条項違反を肯定した。一方、作品3ないし9については、和解成立前に既に掲載されており、和解後に亡Cが掲載の継続に関与したとは認められないとして違反を否定した。損害額については、違約金400万円(200万円×2点)を認容したが、作品価値下落の損害は原告担当者の推測による報告書のみでは立証不十分として棄却した。請求額約2億2710万円に対し、認容額は400万円にとどまった。