覚醒剤取締法違反被告事件
判決データ
AI概要
【事案の概要】 本件は、覚醒剤取締法違反の同種前科3犯を含む前科4犯を有する被告人が、直近の前科に係る刑の一部執行猶予期間中かつ保護観察期間中に、自宅において覚醒剤約0.134gを所持し(第1)、覚醒剤を自己の身体に注射して使用した(第2)という覚醒剤取締法違反2件から成る事案である。被告人は、平成30年9月に覚醒剤の自己使用及び単純所持により懲役2年(うち6月について2年間保護観察付執行猶予)の刑に処せられ、約1年2か月間の服役後に仮釈放を経て実刑部分の執行を終えたが、一部執行猶予期間中の令和3年5月に本件各犯行に及んだ。原審は被告人を懲役1年6月の実刑に処したところ、検察官が量刑が軽過ぎて不当であるとして控訴した。なお、刑の一部執行猶予制度は平成28年6月に施行された比較的新しい制度であり、実刑部分の執行後に社会内処遇を通じて再犯防止を図る趣旨のものである。 【争点】 検察官の控訴趣意の要旨は、覚醒剤自己使用の再犯については前刑より重い刑が科されるという一般的な量刑傾向が存在し、前刑の一部執行猶予期間中の再犯の場合も基準となる前刑の刑期は宣告刑全体(懲役2年)と解すべきであるとした上で、同種前科3犯で前刑の宣告刑が懲役2年である類似事案34件中、懲役2年を下回る事案は1件のみであり、中心的量刑は懲役2年4月であるから、懲役1年6月は量刑傾向を逸脱して軽過ぎるというものである。 【判旨】 広島高裁は、検察官の控訴を棄却した。まず、被告人の最初の覚醒剤前科は本件から15年以上前の少量譲渡であり、同種前科3犯を前提とする量刑傾向の参照に疑問があるとした。次に、量刑判断は個々の事案についての行為責任にふさわしい刑を明らかにすることを中核とすべきであり、前刑の刑期にも判決裁判所の量刑裁量による一定の幅がある以上、今回の刑の下限を前刑の刑期を上回るものと設定することはかえって不公平をもたらしかねず、前刑の宣告刑が今回の行為責任の重さに直ちに結び付くものではないと判示した。もっとも、同種再犯に係る行為責任の加重自体は認めた上で、前刑における単純所持の覚醒剤量が本件の2倍を超える約0.299gであったこと、被告人が宣告刑全部の執行を終える前の犯行であり前刑の感銘力を宣告刑執行終了後の場合と同列に論じられないことなどを踏まえ、懲役1年6月が量刑傾向の大枠を逸脱した軽過ぎて不当なものとまではいえないと結論付けた。