AI概要
【事案の概要】 本件は、原告が被告の開設する病院で健康診断を受診した際、4階の職員専用通路において床上の水たまりに足を滑らせて転倒し、左上腕骨頚部を骨折したとして、土地工作物責任(民法717条1項)に基づき、治療費、休業損害、慰謝料等合計約1852万円の損害賠償を求めた事案である(本訴)。これに対し、被告病院が、原告の治療に係る診療報酬約116万円の支払を求めて反訴を提起した。民法717条1項は、土地の工作物の設置又は保存に瑕疵があり、これによって他人に損害が生じた場合に占有者又は所有者が賠償責任を負うと定める無過失責任に近い制度であり、被害者の立証負担が軽減される点に特徴がある。 【争点】 主な争点は、①病院通路の設置又は保存の瑕疵の有無、②原告に生じた損害の内容及び金額、③原告の過失相殺の可否及び割合、④反訴における有償診療契約の成立の有無であった。被告は、通路は屋外の職員専用スペースであり一般利用者の立入りは禁止されていたとして瑕疵を否認し、原告の行動は異常であったと主張した。原告は、立入禁止の表示はなく、被告職員の案内で通行した経緯があると反論した。 【判旨】 裁判所は、被告が原告に交付した事故報告書面において水たまりの存在や立入禁止表示の不備を自認していた点を重視し、事故当時、通路への立入禁止表示はなかったと認定した。その上で、エレベーターが1基しかなく4階が健診会場であったという客観的状況から、健診受診者が屋内階段を利用して当該通路に立ち入ることは十分あり得たと判断した。降雨の影響で生じた水たまりが存在する通路は、簡易スリッパを履いた健診受診者が安全に通行できる性状を欠いていたとして、保存の瑕疵を認めた。損害については、後遺障害の等級該当性を否定し、治療費770円、通院交通費約13万円、休業損害約187万円、入通院慰謝料201万円等を認定した上で、通路に屋外開放部分があることを認識し得た原告にも2割の過失相殺を適用し、弁護士費用27万円を加えた299万2390円を認容した。反訴については、診療録に会計不要の指示が貼付されていたこと等から有償の診療契約の成立を否定し、棄却した。