映画上映禁止及び損害賠償請求事件
判決データ
AI概要
【事案の概要】 本件は、従軍慰安婦問題を扱ったドキュメンタリー映画「主戦場」をめぐる紛争である。原告ら5名は、被告F(映画監督)が上智大学大学院の修士論文に代わる映像作品の製作を名目に取材を行い、その取材映像等を利用して商業映画を製作・上映したことについて、著作権・著作者人格権・肖像権・名誉権・パブリシティ権の侵害、取材承諾の詐欺取消し・錯誤無効、大学の研究倫理規定に基づく同意撤回、事前確認条項違反の債務不履行、欺罔による役務提供等を主張して、映画上映の差止め及び損害賠償を求めた事案である。映画は、従軍慰安婦問題について異なる立場の論者への取材を通じ歴史認識の対立構造を描くもので、原告らは映画冒頭で「歴史修正主義者」「否定論者」と呼称された。なお、原告らは取材前後に被告Fとの間で取材映像の利用許諾に関する承諾書・合意書を作成していた。 【争点】 主な争点は、(1)取材映像の利用が著作権・肖像権等を侵害するか(許諾の有効性を含む)、(2)映画における「歴史修正主義者」等の呼称が名誉権・著作者人格権を侵害するか、(3)原告Bらが著作権を有する外部映像等の利用が著作権法32条1項の引用として適法か、(4)同一性保持権侵害の有無、(5)事前確認条項違反の債務不履行の有無、(6)取材時の欺罔行為の有無である。特に、取材時の承諾書・合意書による許諾が詐欺取消し又は錯誤により無効となるか、大学の研究倫理規定に基づき撤回できるかが重要な争点となった。 【判旨】 裁判所は、原告らの請求をいずれも棄却した。まず、許諾の有効性について、被告Fは取材時点で映画の配給について具体的な話をしていなかったものの、良い映画ができれば映画祭への応募も視野に入れており、承諾書にも映画の配給・上映・公開に関する記載があったことから、商用公開の可能性を秘匿していたとはいえず、詐欺取消し・錯誤無効は認められないとした。大学の研究倫理規定に基づく撤回についても、同規定は映画の製作・上映に適用されるものとは直ちに認められず、個別の利用許諾が遡って無効になるものではないとした。名誉権侵害については、「歴史修正主義者」等の語は多義的であり、映画全体の構成を考慮すると、一般的な視聴者が原告らを客観的史料なく歴史的事実を否定する者と否定的に評価するとは限らないとして、社会的評価の低下を否定した。仮に評価が低下するとしても、従軍慰安婦問題は公共の利害に関する事実であり、意見・論評の前提事実の主要な点は真実で、人身攻撃に及ぶものでもないとして違法性を否定した。外部映像等の利用については、紹介・参照・批評の目的で区別して用いられており、利用時間や態様に照らし公正な慣行に合致する適法な引用と認定した。同一性保持権侵害についても、引用に伴う改変はやむを得ない改変(著作権法20条2項4号)に該当するとした。