金融商品取引法違反被告事件
判決データ
- 事件番号
- 令和3あ96
- 事件名
- 金融商品取引法違反被告事件
- 裁判所
- 最高裁判所第三小法廷
- 裁判年月日
- 2022年2月25日
- 裁判種別・結果
- 決定・棄却
- 裁判官
- 渡惠理子、戸倉三郎、宇賀克也、林道晴、長嶺安政
- 原審裁判所
- 大阪高等裁判所
AI概要
【事案の概要】 被告人は、A証券株式会社のファイナンシャルアドバイザリー部門(F部)に所属するジュニア(下位の実務担当者)であった。F部では、C社がA社との間でファイナンシャルアドバイザリー契約を締結し、C社の上場子会社であるD社株券の公開買付け(本件公開買付け)に係る案件を同僚のBらが担当していた。案件には情報管理のため「Infinity」というコードネームが付されており、社名が特定されないよう運用されていた。被告人は本件案件の担当ではなかったが、ジュニアの業務状況を把握するための共有フォルダ内の一覧表を閲覧してBの担当案件の概要を知り、さらにBが電話中に不注意から顧客の社名「C」を口にしたのを聞いて公開買付者がC社であることを把握した。被告人はその後インターネットでC社の有価証券報告書を閲覧し、上場子会社がD社のみであることを確認して公開買付けの対象を特定した。被告人は知人のEに利益を得させる目的で本件公開買付けの実施に関する事実を伝達し、EはD社株券合計29万6000株(代金合計約5327万円)を公表前に買い付けた。被告人は金融商品取引法違反(インサイダー取引の情報伝達)で起訴された。 【争点】 被告人が本件公開買付けの実施に関する事実を知ったことが、金融商品取引法167条1項6号にいう「その者の職務に関し知つたとき」に当たるか否かが争われた。弁護側は、被告人が知ったのは公開買付けの実施に関する事実の一部にすぎず、対象会社の特定は自らのインターネット検索という職務外の調査によるものであるから、「職務に関し知った」とはいえないと主張した。また、証券会社の従業者は日常的に株式市場等に関する情報を収集・分析する業務を行っており、このような解釈では処罰範囲が不明確になると指摘した。 【判旨(量刑)】 最高裁は上告を棄却した。被告人はF部に所属する従業者としてアクセスできる共有一覧表の情報と、同部の担当業務に関する同僚の不注意による発言を組み合わせることにより、C社が上場子会社の株券の公開買付けを行う決定をしたことまで知った上で、有価証券報告書を閲覧して対象会社をD社と特定したものであるとした。このような事実関係の下では、自らの調査により対象会社を特定したとしても、証券市場の公正性・健全性に対する一般投資家の信頼を確保するという金融商品取引法の目的に照らし、「その者の職務に関し知つたとき」に当たることは明らかであると判示し、裁判官全員一致の意見で原判断を是認した。本決定は、職務上アクセスし得る情報を端緒として公開買付けの実施に関する事実を知るに至った場合、最終的な対象会社の特定が職務外の調査によるものであっても同号の適用を妨げないという解釈を示した点に実務的意義がある。