東京外環道気泡シールドトンネル工事差止仮処分命令申立事件
判決データ
AI概要
【事案の概要】 東京外かく環状道路(東京外環)の未整備区間(関越道〜東名高速間の16.2km)について、大深度地下使用の認可を得て気泡シールド工法によるトンネル掘削工事が進められていたところ、令和2年10月、東京都調布市の道路上で約5m×3m、深さ約5mの地表面陥没が発生した。施行者の東日本高速道路株式会社は本件工事との因果関係を認め、その後の調査で陥没箇所周辺に3つの地中空洞も発見された。本件は、工事区域内またはその周辺に居住する債権者らが、気泡シールド工法による工事の再開により陥没事故や酸素欠乏空気(酸欠空気)の漏出が生じ、生命・身体の安全や居住環境に取り返しのつかない損害を被るおそれがあるとして、人格権・財産権及び不法行為に基づく差止請求権を被保全権利として、工事全体の仮差止めを求めた仮処分命令申立事件である。 【争点】 主な争点は、①人格権・財産権及び不法行為に基づく差止請求の可否(陥没事故や酸欠事故の具体的危険性の有無、再発防止対策の実効性)、②保全の必要性の有無である。債権者らは、陥没を生じさせた地盤条件は特殊ではなく各居住地にも類似性があること、再発防止対策に科学的根拠がないことを主張した。一方、債務者らは、陥没は3つの特殊な地盤条件が全て揃った箇所で発生した例外的事象であり、再発防止対策を策定中であること、酸欠空気は大気中で直ちに希釈されるため危険はないことを主張した。 【判旨】 裁判所は、有識者委員会報告書に基づき、本件陥没は特殊な地盤条件下(表層部が薄い、掘削断面上部が単一の砂層で影響が地表に伝搬しやすい、掘削断面の細粒分が少なく均等係数が小さい)において、夜間休止時のカッター閉塞を解除するための特別な作業と、掘進再開時の土砂の過剰掘削が原因で生じたと認定した。債権者のうちX10については、居住場所が陥没箇所から約31mと近接し、地盤が陥没箇所と同様の特殊条件に該当するため、有効な再発防止対策が示されないまま東名立坑発進の工事が再開されれば、同様の陥没が生じる具体的おそれがあると認めた。事業の公共性を考慮してもなお差止めの違法性が認められるとして、東名立坑発進の本線トンネル工事について無担保での仮差止めを認容した。一方、その他の債権者らについては、各居住場所の地盤が特殊条件を全て満たさないとして差止請求を却下した。酸欠空気については、水面上1.5mでの酸素濃度がいずれも20%超であり、大気中で希釈されるため具体的危険はないとした。また、不法行為に基づく差止請求は、民法709条の効果は金銭賠償であり、723条も名誉毀損に限定された規定であるとして否定した。