AI概要
【事案の概要】 介護付有料老人ホームの職員であった被告人が、平成26年11月から12月にかけて、同施設の入居者3名(当時87歳、86歳、96歳)を、それぞれ施設のベランダからフェンスを乗り越えさせて地上に転落させ殺害したという殺人3件の事案である。第一審(横浜地裁)は被告人を死刑に処し、被告人が控訴した。弁護人は、自白調書の証拠採用等に訴訟手続の法令違反があること、各被害者は自ら転落した可能性があり被告人は犯人ではないとして事実誤認を主張した。 【争点】 主な争点は、(1)自白調書及び取調べ録音録画記録媒体の証拠採用の適法性、(2)各被害者が第三者によって転落させられたか(事件性)、(3)被告人が犯人であるか(犯人性)、(4)被告人の捜査段階の自白の信用性である。弁護人は、被告人が軽度知的障害や自閉スペクトラム症の特性により、マスコミの取材攻勢から家族を守ってもらうために警察官に迎合して虚偽の自白をした可能性を主張し、心理学者によるスキーマ・アプローチ分析の鑑定結果も援用した。 【判旨(量刑)】 東京高裁は、原判決の録音録画記録媒体の使用方法に一部違法を認めたものの、判決に影響を及ぼすものではないとした。事件性について、第2事件及び第3事件の被害者は身体能力等から自力でフェンスを乗り越えることは不可能であり第三者の犯罪行為によるものと認定し、第1事件も事故・自殺の可能性はほぼないとした。犯人性について、原審が同一犯の推認や消去法により被告人を犯人と認定した点には慎重な姿勢を示し、夜勤担当者以外の職員等にも犯行の機会があり得るとしたが、第3事件については被告人のベランダの履き物に関する発言等から合理的な疑いを超えて犯人と認定でき、第2事件についても犯行予知発言等から被告人が犯人でない可能性はほぼないとした。自白の信用性については、取調べ状況に強制や圧力は認められず、家族への犯行告白の経緯も虚偽とすれば理解し難いとして信用性を肯定した。スキーマ・アプローチ鑑定については、被告人の自閉スペクトラム症の特性や被害者らの状況を考慮すれば、供述の構造的差異が体験の不在を示すとはいえないとして採用しなかった。以上を総合し、3名殺害の重大性、悪質性に鑑み、死刑とした原判決の量刑は重すぎて不当とはいえないとして控訴を棄却した。