損害賠償請求事件
判決データ
AI概要
【事案の概要】 交通事故により頸椎捻挫等の傷害を受けた上告人が、加害車両の運転者である被上告人に対し、民法709条又は自賠法3条に基づき損害賠償を求めた事案である。上告人の夫は訴外保険会社との間で人身傷害条項のある自動車保険契約を締結しており、上告人は同条項の被保険者であった。上告人の損害額は合計約341万円(過失割合3割で過失相殺後約239万円)であり、上告人は被上告人の対人賠償責任保険から約24万円、自賠責保険から後遺障害分75万円を受領したほか、訴外保険会社から人身傷害保険金として合計約111万円の支払(本件支払金)を受けた。その後、訴外保険会社が自賠責保険から傷害分の損害賠償額約84万円(本件自賠金)を受領したことから、この金員を上告人の損害賠償請求権の額から全額控除できるかが争われた。 【争点】 人傷一括払合意のもとで訴外保険会社が人身傷害保険金を支払った場合に、訴外保険会社がその後自賠責保険から受領した金員(本件自賠金)を、被害者の加害者に対する損害賠償請求権の額から全額控除できるか。 【判旨】 原判決を変更し、上告人の請求を認容した。最高裁は以下のとおり判示した。 本件約款によれば、人身傷害保険金の額は、保険金請求権者が自賠責保険から支払を受けていないときには自賠責保険の損害賠償額を考慮せず所定の基準に従い算定されるものであるから、人傷一括払合意をした場合であっても、訴外保険会社が人身傷害保険金としての給付義務額と同額を支払ったにすぎないときには、保険金請求権者としては人身傷害保険金のみが支払われたと理解するのが通常であり、そこに自賠責保険による損害賠償額の支払分が含まれるとみるのは不自然・不合理である。また、本件代位条項によれば、過失相殺がされる場合には訴外保険会社が代位取得できる債権の範囲は保険金支払額を下回るところ、支払金の中に自賠責保険分が含まれるとして全額の支払を受けられるとすると、被害者の損害の塡補に不足が生じ得るが、これは保険契約当事者の合理的意思に合致しない。さらに、本件保険金請求書及び本件協定書の記載内容は、訴外保険会社が本件代位条項に基づき保険代位できることの確認・承認の趣旨であり、上告人が自賠責保険の受領権限を委任した趣旨を含むとは解されない。 以上より、本件支払金は全額が人身傷害保険金として支払われたものであり、訴外保険会社は保険代位できる範囲でのみ上告人の債権を取得するにとどまる。その後に訴外保険会社が本件自賠金の支払を受けたことは上告人の損害賠償請求権の額に影響を及ぼさず、本件自賠金に相当する額を控除することはできない。