AI概要
【事案の概要】 本件は、被告が有する「屋内のネット等の吊張体の吊張り方法、及びその装置」に関する特許(特許第3598508号、請求項1〜3)について、原告が特許無効審判を請求したところ、特許庁が請求項1〜3に係る発明についての審判請求は成り立たないとする審決をしたため、原告がその取消しを求めた審決取消訴訟である。本件特許は、体育館等の円弧状の天井部を有する屋内でネット等の吊張体を吊張りする方法及び装置に関し、吊り上げワイヤーの他端側(床面側)に設けた調整手段により、天頂部との高さ方向の距離に対応した長さをあらかじめ調整してネットを円弧状に吊張りすることを特徴とする。原告は、(1)明確性要件違反(調整手段の具体的構成が不明確)、(2)実施可能要件違反(当業者が実施できる程度に記載されていない)、(3)進歩性欠如(先行文献から容易に発明できた)の3つの取消事由を主張した。 【争点】 1. 明確性要件違反の有無(特許法36条6項2号):「高さ方向の距離に対応した長さ」及び「調整手段」の記載が不明確か。 2. 実施可能要件違反の有無(同条4項1号):明細書に当業者が実施できる程度に記載されているか。 3. 進歩性欠如の有無(同法29条2項):甲1発明(特開2003-117046号)に甲2〜甲5文献記載の事項を適用して容易に発明できたか。 【判旨】 裁判所は、原告の請求を棄却した。 第1に、明確性要件について、特許請求の範囲の記載に加え明細書の記載を参酌すると、「高さ方向の距離に対応した長さ」は吊り上げワイヤーの一部分の長さを指し、「調整手段」は当該長さを吊張体又は吊り上げワイヤーの他端側(床面側)で調整するものと解することができるから、調整手段の具体的構成が特定されていなくても第三者に不測の不利益を及ぼすほど不明確とはいえず、明確性要件を満たすと判断した。 第2に、実施可能要件について、明細書にはストッパー、筒状体、ワイヤー挿通体等の調整手段の具体的構成が開示されており、当業者であれば過度の試行錯誤なく実施できる程度に記載されていると認定した。原告が問題とした個々の実施例や図面に十分でない点があることは認めつつも、全体として実施可能要件に適合するとした。なお、原告主張の「ネットの折り畳み状態の調整」(作用効果2)は、発明が解決しようとする課題には記載がなく、課題解決手段による作用の一つにすぎないため、実施可能要件の対象とならないと判示した。 第3に、進歩性について、本件発明は吊り上げワイヤーの長さを床面側で調整し各ワイヤーの吊り上げタイミングを変える構成であるのに対し、甲1発明は天井側のウインチワイヤーに固定された停止具で各ワイヤーの移動タイミングを変える構成であり、両者の動作機序は根本的に異なると認定した。甲2文献は単なる幕体の吊り上げ機序にすぎず適用の動機付けがなく、甲3文献のターンバックルもネットを一線に揃える微調整にすぎないとして、いずれの先行文献を適用しても本件発明の調整手段の構成に想到し得ないと判断し、審決の判断に誤りはないとした。