特許権侵害差止等請求控訴事件
判決データ
AI概要
【事案の概要】 発明の名称を「吹矢の矢」とする特許権を有する被控訴人(原審原告)が、控訴人(原審被告)に対し、控訴人が製造販売する吹矢の矢(被告製品)が本件特許の請求項2の発明(本件発明)の技術的範囲に属すると主張して、特許法100条1項・2項に基づく差止め・廃棄、及び民法709条に基づく損害賠償金約4565万円の支払を求めた事案の控訴審である。本件発明は、ピンの先端部の長手方向断面を「楕円形」とすることで、従来の丸釘の「かえし」に起因する矢の抜けにくさや重心の偏りといった課題を解決するものである。原審は文言侵害を認め、差止請求及び損害賠償約3596万円を一部認容したため、控訴人が控訴し、被控訴人が附帯控訴した。 【争点】 主な争点は、(1)被告製品のピンの先端部が構成要件B・Dの「楕円形」を充足するか(文言侵害の成否)、(2)均等侵害の成否(第1要件・第3要件)、(3)特許無効の抗弁(進歩性欠如)、(4)損害額(推定覆滅事由の有無)であった。特に「楕円形」の意義として、被告製品のような長手方向の端の一方が他方よりも曲率の小さい形状(卵形・涙滴型等)が含まれるかが中心的に争われた。 【判旨】 知財高裁は原判決を取り消し、被控訴人の請求をいずれも棄却した。まず文言侵害について、「楕円形」は幾何学上の楕円の形状及びそれに近い形を意味するが、両端の曲率に差のある形状(卵形等)を含むかは明細書の文脈等を踏まえて判断すべきとした。本件明細書には「楕円形」の意義についての明確な説明がなく、実施例(図3)は長手方向両端の曲率が同じ小判型の形状のみを示していること、ピン抜けの課題や重心の課題の解決には幾何学上の楕円形状で足り曲率に差のある形状である必要はないこと等から、構成要件B・Dの「楕円形」は曲率に差のある形状を含まないと解するのが相当とした。被告製品は曲率に差のある形状であるから、文言侵害は成立しない。次に均等侵害について、第1要件(非本質的部分)に関し、「長手方向断面が楕円形」という先端部形状の特定は本件発明の本質的部分に含まれるとし、被告製品の形状への置換えは本質的部分の変更に当たるとした。第3要件(置換容易性)についても、曲率に差のある形状への変更で課題解決に支障が生じ得る一方、明細書にはその許容範囲を判断するデータ等がなく、当業者が容易に想到できたとは認められないとした。以上により均等侵害も成立しないと判断し、その余の争点を判断するまでもなく請求を棄却した。