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【事案の概要】 東京拘置所に未決拘禁者として収容されていた原告(控訴人)が、収容中に受けた歯科診療等に関する自己の診療録(カルテ)の開示を、行政機関個人情報保護法に基づき東京矯正管区長に請求したところ、同法45条1項所定の「刑の執行等に係る保有個人情報」に該当し開示請求の対象外であるとして、全部不開示の決定を受けた。原告は、この不開示決定の取消しと、国家賠償法1条1項に基づく慰謝料等160万円の支払いを求めて提訴した。第1審・差戻し前控訴審はいずれも原告の請求を棄却したが、最高裁は上告審として、被収容者の診療情報は同法45条1項所定の保有個人情報に当たらないと判断し、原審に差し戻した。差戻し後、処分行政庁が一部を除き開示する部分開示決定を行ったため、取消訴訟の訴えの利益は消滅し、当審の争点は国家賠償請求の成否及び損害額に絞られた。 【争点】 法務省の担当者等が、被収容者の診療記録を行政機関個人情報保護法45条1項の適用除外対象に含まれると解釈して不開示決定を行ったことについて、国家賠償法1条1項の違法(職務上の注意義務違反)が認められるか。 【判旨】 東京高裁は、国家賠償請求を一部認容し、慰謝料30万円及び弁護士費用3万円の合計33万円の支払いを命じた。裁判所はまず、旧法(行政機関電子計算機個人情報保護法)では被収容者の診療情報は「診療関係事項」として開示対象外とされていたのであり、「刑事裁判等関係事項」として除外されていたわけではないと整理した。平成15年改正により行政機関個人情報保護法が制定された際、インフォームド・コンセントの理念の浸透を背景に診療関係事項の除外規定は設けられず、開示範囲を広げる方向で立法がなされた。同法45条1項の文言からは被収容者の診療記録が適用除外に含まれると直ちに読み取ることはできず、被収容者の診療の性質は社会一般の診療と異ならないことも踏まえると、適用除外に含まれないとの結論が導かれるべきであった。したがって、法務省の担当者等は職務上尽くすべき注意義務を尽くしていれば適用除外に含まれないと認識できたにもかかわらず、法制定当初から誤った解釈を組織的に維持してきたものであり、注意義務違反が認められると判断した。もっとも損害額については、原告が証拠保全手続により歯科診療記録の開示を受けていたこと等の事情を考慮し、慰謝料30万円、弁護士費用3万円の合計33万円を認容した。