特許権侵害差止等請求事件
判決データ
AI概要
【事案の概要】 原告株式会社シンコウフーズは、「特定加熱食肉製品、特定加熱食肉製品の製造方法及び特定加熱食肉製品の保存方法」に関する特許権(特許第5192595号)を有する企業であり、原告スターゼン株式会社は同特許の独占的通常実施権者である。本件特許は、ローストビーフ等の特定加熱食肉製品をスライスした後、空気中で酸素化させる工程を経て、非鉄系脱酸素材とともにガスバリア性を有する包材に密封することで、ミオグロビンの割合を所定の範囲に制御し、褐変を防止して長期間にわたり優れた肉色を維持できるという製造方法の発明である。原告らは、被告ハンナン株式会社がイトーヨーカ堂向けに製造・販売していたローストビーフ3製品が本件特許の技術的範囲に属するとして、特許法100条に基づく差止め・廃棄及び約6億2000万円の損害賠償を請求した。 【争点】 主な争点は、(1)被告製品が本件発明の構成要件B(酸素化する工程)、C(非鉄系脱酸素材とともにガスバリア性包材に密封する工程)、D(酸素濃度検出限界以下での所定ミオグロビン割合)を充足するか、(2)本件特許が乙12発明(特開平10-327807号・スライスされたローストビーフの包装方法)を主引例として進歩性を欠き無効とされるべきか、(3)損害額等であった。特に構成要件Bについては、スライス後に空気に触れることが「酸素化する工程」に該当するか、意図的な作為が必要かが争われた。また、進歩性については、乙12発明に乙13発明(冷蔵庫内で酸素化期間を設ける貯蔵方法)及び乙14発明(CO2発生型非鉄系脱酸素剤による生肉保存方法)を組み合わせることで本件発明に容易に想到できるかが争われた。 【判旨】 裁判所は、まず構成要件の充足性について、構成要件B(酸素化工程)はスライス後に空気に暴露されることで足り、酸素化のみを目的とする別途の工程を設ける必要はないとして、被告製品はこれを充足すると判断した。構成要件C(密封工程)についても、被告製品は遅くとも消費者が開封するまでに酸素濃度が検出限界以下(0.1%以下)に達しており充足するとした。構成要件D(ミオグロビン割合)については、吸光度の測定はSCE(正反射光除去)方式で包材越しに行うのが当業者の認識であるとし、原告らの測定結果に基づき被告製品は本件ミオグロビン割合を満たすと認定した。しかし、進歩性の判断において、裁判所は、乙12発明に乙13発明を組み合わせることで酸素化工程(相違点1)を容易に想到でき、乙12発明の鉄系脱酸素剤を非鉄系脱酸素剤に置換すること(相違点2)も金属探知機対策や色調維持の観点から容易であり、さらにミオグロビン割合の数値限定(相違点3)も技術常識に基づき当業者が適宜設定できるものであるとした。原告らが主張する顕著な効果(20日間の色調維持)についても、従来技術に照らして顕著な効果があるとは認められないとした。以上から、少なくとも窒素ガス等への置換工程を含み非鉄系脱酸素剤のみを用いる構成については進歩性を欠き、本件特許は無効審判により無効とされるべき事由があるとして、原告らの請求をいずれも棄却した。