AI概要
【事案の概要】 本件は、ロッテグループに属する原告会社が、平成18年から平成26年まで原告の唯一の代表取締役であった被告(ロッテグループ創業者の長男)に対し、会社法423条1項に基づき約9億6054万円の損害賠償を求めた事案である。被告は、小売店舗の商品陳列棚を無断で撮影し、画像認識エンジンで解析したデータをマーケティング情報として販売する新規事業(本件事業)を推進した。本件事業は、隠し撮りカメラを用いて撮影禁止の店舗を含む小売店舗で無断撮影を行うことを前提としていた。事業開始に際しては、ロッテHDの代表取締役社長らが小売業者との信頼関係破壊を理由に強く反対していたが、被告は、原告が店頭調査に関与せずデータ処理のみを行うという虚偽の説明により、創業者や取締役会の承認を取り付けて事業を実施した。事業には約9億6054万円が投じられたが、最終的に事業は失敗に終わった。 【争点】 1. 被告が本件事業を実施したことが取締役としての任務懈怠(法令違反又は善管注意義務違反)に当たるか 2. 任務懈怠に当たる場合、原告が本件事業のために支出した約9億6054万円が任務懈怠と因果関係のある損害といえるか 【判旨】 裁判所は、争点1について、まず法令違反(建造物侵入罪)の主張を退けた。建造物侵入罪は取締役を名宛人とする規定ではなく、無断撮影目的の立入りが一律に同罪に該当するとは断言できないとした。他方、善管注意義務違反については、経営判断原則に照らし、本件事業を実施するとの判断内容自体には著しい不合理があるとまではいえないとしつつも、その判断の過程に著しい不合理があったと認定した。具体的には、ロッテグループの経営陣が無断撮影による小売業者とのトラブルを理由に強く反対していたにもかかわらず、被告は、原告が店頭調査に関与しないという虚偽の説明により創業者及び取締役会の承認を取り付けて本件事業を実施したものであり、経営陣による検討・承認の機会を失わせたと判断した。 争点2については、事業開始から追加投資承認までの支出約4億8096万円を任務懈怠と因果関係のある損害と認めた一方、追加投資承認後の支出約4億7958万円については、ロッテグループ経営陣が追加承認時点で無断撮影の実態を認識していたと認定し、損害と認めなかった。 以上より、裁判所は約4億8096万円及び遅延損害金の支払を命じ、その余の請求を棄却した。