仮想通貨送信等請求事件
判決データ
AI概要
【事案の概要】 平成30年1月26日、仮想通貨交換業者である被告コインチェック株式会社が管理していた仮想通貨NEM(約5億2630万XEM)が外部に不正送信(ハッキング)される事件が発生した。これを受けて被告会社はNEMの出入金・取引を停止し、さらに全仮想通貨の出金を停止する措置を講じた。被告会社は、NEM保有者に対し1XEM当たり88.549円の日本円補償を実施した。本件は、被告会社のユーザー口座に仮想通貨を保有していた原告ら(複数事件・計45名)が、被告会社に対しては利用契約に基づくNEMの送信、送信義務の履行遅滞による損害賠償等を、被告会社の代表取締役・取締役・監査役に対しては会社法429条1項に基づく損害賠償を求めた事案である。 【争点】 (1) NEM保有原告らによるNEM送信請求の可否(補償措置による送信義務の消滅、権利濫用の成否)、(2) NEM送信義務に係る代償請求の訴訟要件、(3) 被告会社の送信義務の履行遅滞の有無、(4) 被告会社の管理体制構築義務違反(コールドウォレット管理義務、マルチシグ設定義務等)の有無、(5) 被告役員らの損害賠償責任、(6) 損害額、(7) NEM送信義務の履行不能の成否。 【判旨】 裁判所は、争点(1)につき、利用規約に補償合意を内容とする明示的定めがなく、規約は画一的・統一的に契約内容を確定することが予定されていたことから、補償措置によりNEM送信義務が消滅したとの被告会社の主張を排斥した。NEM保有者の換金を強制し価格上昇の利益獲得機会を奪う補償措置は顧客に不利益を与えるものであり、権利濫用の主張も退け、NEM保有原告らの送信請求を認容した。争点(2)の代償請求については、NEM送信義務は間接強制によるべきところ、その執行不能を観念することは困難であるとして、将来給付の訴えの訴訟要件を欠き不適法と判断した。争点(3)につき、利用規約14条1項はハッキング等の場合にサービス停止を認めており、本件停止措置は必要な範囲でされたものであるから、履行遅滞は認められないとした。争点(4)につき、当時コールドウォレットによるNEM管理を義務づける法令はなく、NEM用コールドウォレットの開発・運用には相当の困難が伴い、業界でも一般的でなかったことから、管理体制構築義務違反を否定した。マルチシグ設定義務・不正アクセス遮断の仕組み構築義務についても同様に否定した。争点(5)は管理体制構築義務違反が認められない以上、役員らの責任も否定した。争点(7)の履行不能についても、NEM送信請求権は種類債権に類する性質を有し、他の取引所でNEMを調達して送信に応じることが可能であったとして否定した。結論として、NEM保有原告らの被告会社に対するNEM送信請求のみを認容し、その余の請求をいずれも棄却又は却下した。