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【事案の概要】 本件は、「食器」と題する特許(特許第5636478号、請求項5)に対する特許無効審判の審決取消訴訟である。被告(特許権者)は、平成25年8月に、素材色が異なる複数枚の竹材平板を積層接着した積層厚板部に窪み部を穿削し、その立面と底面のなす角に半径略5〜15mmのR部を設けた幼児用食器に関する発明について特許出願し、平成26年10月に設定登録を受けた。本件特許の技術的特徴は、竹の集成材を用いて異なる素材色の竹材平板を互い違いに積層することで、窪み部の深さを視覚的に認識しやすくするとともに、R部の曲面によりスプーンで食物を掬い上げやすくした点にある。この構成は、幼児や高齢者、非健常者が食事をする際に食材を余さず掬い上げられるようにするという課題を解決するものであり、竹材の硬度・耐水性・食物腐敗抑制効果といった素材特性も活かされている。原告は、令和元年10月に本件特許について無効審判を請求したが、特許庁は令和3年8月に請求不成立の審決をした。原告は、書籍「ベビーギフト100」に掲載された竹製こども用食器(甲4)を主引用例として、本件発明1〜5の新規性・進歩性の欠如を主張し、審決の取消しを求めた。 【争点】 主な争点は、甲4(書籍「ベビーギフト100」のこども用食器紹介ページ)に本件発明の構成が開示されているか否かである。具体的には、(1)甲4記載の食器が、素材色の異なる竹材平板を互い違いに積層した構成を備えているか(相違点9・27)、(2)甲4記載の食器のR部が半径略5〜15mmとなるよう形成され、入隅部の曲面状の立ち上がりにおいて中間部分の竹材平板の素材色が上下部分と異なる構成を備えているか(相違点10・28)が争われた。原告は、本件訴訟で新たに提出した原告従業員作成の説明書(甲76)に基づき、甲4の写真から寸法比率を算出してR部の半径を推定する主張を行った。 【判旨】 知財高裁は、原告の請求を棄却した。まず相違点10について、甲4には食器の直径と高さ以外の寸法の記載がなく、甲4の写真のアングルや解像度からはR部の角度や半径の寸法を認識することは困難であるとし、甲4からR部が「半径略5〜15mm」の構成を有することの開示を認識することはできないと判断した。原告が甲76に基づいて写真の寸法比率からR部の半径を推定した主張についても、甲76は本件出願前に頒布された刊行物に当たらず、甲4自体にはこれらの比率や寸法の記載がないことから、甲4に接した当業者がこれらの事項を認識・理解することはできないとして退けた。以上により、本件発明1〜5はいずれも甲4に記載された発明と同一とはいえず、審決に違法はないと結論づけた。