殺人未遂(認定罪名|傷害)被告事件
判決データ
AI概要
【事案の概要】 ホストクラブに勤務していた被告人が、勤務中に飲酒して服を脱ぐなどの問題行動を起こし、上司である被害者(当時36歳)から注意を受けて帰宅を指示された。被告人は店を出た後、約330m離れたスーパーで三徳包丁(刃体約16.8cm)を購入して店舗に戻り、包丁を右手に持って店内に入ると被害者に近づいた。被害者が被告人の両手首をつかんで制止しようとしたが、被告人はこれを振りほどき、体を左回りに回転させながら包丁で被害者の左臀部を1回突き刺した。包丁は革製ベルトとジーパンを貫通し、厚さ約1cmの左腸骨翼をも貫通して深さ約5.7cmの刺創を生じさせ、被害者に全治約1か月間の骨盤骨折等の傷害を負わせた。検察官は殺人未遂として起訴したが、裁判所は殺意を認定できないとして傷害罪の限度で認定した。裁判員裁判。 【争点】 第1の争点は殺意の有無である。検察官は、骨盤を貫通するほどの強い力で包丁を刺した行為には殺意が認められると主張した。第2の争点は責任能力の程度であり、弁護人は飲酒酩酊により心神耗弱であったと主張した。 【判旨(量刑)】 裁判所は、まず責任能力について、精神鑑定を行ったC医師の証言に基づき、犯行当時の血中アルコール濃度は軽度酩酊状態にあったが、外界に対する見当識は保たれており幻覚や妄想も生じていなかったと認定した。被告人がスーパーで包丁を購入し、人目を避けてエレベーターに乗り込み、店内で複数の人の中から被害者を識別して近づくなど、目的に沿った合理的行動をとっていたことから、完全責任能力を認めた。 殺意については、被告人が意図的に力を込めて被害者を刺したことは認められるものの、振り向き様に左回転しながら刺した状況から、包丁が刺さる部位は左臀部の腰付近と認識していたにとどまり、重要な臓器が密集する腹部に刺さることまでは認識していなかった疑いが残るとした。左臀部の腰付近には硬い骨盤があり腹部のように重要臓器が密集していないため、同部位を包丁で刺すことが人の死の危険性が高い行為と一般的に認識されているとまではいい難いとして、殺意を否定した。犯行後の「殺してやる」との発言も、押し倒されて身動きがとれない状態での苦し紛れの発言と評価した。 量刑においては、骨盤貫通という危険な行為態様、被害者に落ち度がなく動機が短絡的であること、わざわざ包丁を購入した計画性を重視しつつ、被害弁償180万円の提示、断酒と親族の監督による更生意欲、前科がないことを考慮し、懲役2年の実刑とした(求刑懲役7年、弁護人意見懲役3年執行猶予5年)。