原子力発電所運転差止等請求事件
判決データ
AI概要
【事案の概要】 北海道古宇郡泊村に所在する北海道電力泊発電所の周辺住民ら1201名が、同発電所が地震・津波・火山事象に対する安全性を欠いており、事故により生命・身体に対する重大な侵害を受ける危険があるとして、人格権に基づき、被告(北海道電力)に対し、原子炉1号機ないし3号機の運転差止め、使用済核燃料の建屋からの撤去、及び廃炉措置の実施を求めた事案である。泊発電所は加圧水型軽水炉であり、平成24年5月以降全号機が運転を停止している。平成23年の福島第一原子力発電所事故を契機に原子炉等規制法が改正され、新規制基準が制定されたが、被告は平成25年7月に変更許可を申請して以降、約8年半が経過しても適合性審査が終了していない状況にあった。被告は、審査会合の動向を踏まえて訴訟上の主張立証を行うとの姿勢を一貫して示し、基準地震動・基準津波の策定、敷地内断層の活動性の評価、新たな防潮堤の設計等が未了のままであった。 【争点】 主な争点は、(1)敷地内断層の活動性、(2)積丹半島西岸沖海底活断層を踏まえた地震に対する安全性、(3)津波に対する安全性(防潮堤の液状化問題を含む)、(4)火山事象に対する安全性、(5)防災計画の適否、(6)使用済燃料の危険性、(7)廃炉の必要性、(8)事故被害の範囲である。特に津波に対する安全性が中心的争点となり、既存防潮堤の支持地盤の液状化の可能性と、新たな防潮堤が未建設であることが問題となった。 【判旨】 裁判所は、原子力規制委員会が策定した安全基準は社会通念上求められる安全性を具現化したものであるとしつつ、主張立証責任については、原子力発電所の安全性に関する資料・知見を被告が保有していることに鑑み、まず被告側において安全基準を満たしていることを相当の資料・根拠に基づいて主張立証する必要があり、これを尽くさない場合は人格権侵害のおそれが事実上推定されるとした。 津波に対する安全性について、基準津波の敷地前面最大水位上昇量が少なくとも12.63mであり、敷地高さ(T.P.+10m)を上回ることから津波防護施設の設置が不可欠であるところ、既存防潮堤については被告が液状化等の可能性を否定するデータを示さず岩着構造の新防潮堤への変更を表明したこと、新防潮堤は高さ以外の構造が未定であることから、津波防護機能を保持できる施設が存在せず、設置許可基準規則5条1項の基準を満たしていないと判断した。これにより、泊発電所から30km以内に居住する原告ら44名について人格権侵害のおそれを認め、運転差止めを認容した。 一方、使用済核燃料の撤去請求については、撤去先が特定されておらず人格権侵害のおそれを除去する性質を有しないとして棄却し、廃炉請求についても、運転差止め等の個別防止策を超えて廃炉まで必要とする具体的事情は認められないとして棄却した。