AI概要
【事案の概要】 被告人(ベトナム人技能実習生)は、令和2年12月7日、京都市内の路上で足場の組み立て作業に従事中、職長である被害者から仕事のやり方について繰り返し叱責を受けた。被告人が地面にしゃがみこんで仕事を拒否したところ、被害者が被告人の肩付近を引っ張って立たせようとした。被告人は手に持っていた工具(しの付きラチェットレンチ)で被害者の左肩部を突き刺し(加療約2週間の左肩部刺傷)、さらに殺意をもって被害者の後頸部を同工具で突き刺した。被害者は一命をとりとめたものの、加療約3か月間を要し、回復見込みのない両上下肢不全麻痺等の後遺障害を伴う第4・5頸髄損傷等の重傷を負った。傷害及び殺人未遂の事案である。 【争点】 1. 正当防衛の成否:弁護人は、被害者から先に後頭部をつかまれて倒されるなどの攻撃を受けたため、被告人が身を守るために抵抗したものであり正当防衛が成立すると主張した。 2. 殺意の有無:弁護人は、被告人にはしので被害者を傷つける意思や死亡の危険がある行為をしている意識はなく、殺意はなかったと主張した。 【判旨(量刑)】 裁判所は、被害者の公判供述を信用できると判断した。被害者は、被告人を仕事に戻すために肩を引っ張ったところ左腕にしのを刺され、その後しのを振りかぶる被告人を投げ飛ばして押さえつけたと供述しており、これは客観的な傷の状況と整合し、一貫している。他方、被告人及び同僚の供述は具体性を欠き信用性が低いとした。 正当防衛については、被害者が被告人を仕事に戻すために肩を引っ張った行為は反撃を正当化するほど違法ではなく、その後の投げ飛ばし・押さえつけも被告人のしのによる攻撃に対する防御であったと認定。被告人が被害者の後頸部を突き刺した時点で、被害者は背を向けた無防備な状態であり、違法な攻撃は現に行われても間近に差し迫ってもいなかったとして、正当防衛の成立を否定した。 殺意については、被告人はしのを手に持っていることを十分認識しており、自由に逃げられる状態にもかかわらず、無防備な被害者の背後から後頸部を狙い、椎弓を折るほどの強い力で突き刺した点から、少なくとも命を奪う危険性の高い行為と分かっていたとして殺意を認定した。 量刑判断では、被害結果の重大性(回復見込みのない両上下肢不全麻痺)と危険な犯行態様を重視しつつ、技能実習制度の実情や文化的背景の違いに一定の同情を示したものの、犯行への非難を大きく弱めるものではないとした。同種事案の中で重い部類に位置付け、求刑懲役10年に対し、懲役8年を言い渡した。