AI概要
【事案の概要】 被告人は、令和3年12月23日頃、札幌市内の自宅において、同居していた実母である被害者(当時82歳)に対し、頭部、顔面、前胸部及び背部等を多数回にわたり拳で殴打し、足で踏み付けるなどの暴行を加えた。被害者は、頭部顔面の多量皮下出血、外傷性くも膜下出血、多発肋骨骨折、右腎破裂及び腰椎横突起骨折等の傷害を負い、外傷性ショックにより死亡した。裁判員裁判として審理された傷害致死被告事件である。検察官は懲役10年を求刑し、弁護人は保護観察付執行猶予を求めた。 【争点】 第1の争点は、被害者の死因となった傷害が被告人の暴行によるものか、それとも被害者自身が階段から転倒落下したことによる合理的疑いがあるかである。被告人は、顔面を2発殴打し頭部を2回踏み付けたのみで、その後被害者が階段から落ちて負傷したと供述した。第2の争点は、被告人が交番に通報した行為が自首に該当するかである。 【判旨(量刑)】 第1の争点について、裁判所は、被害者の遺体を解剖したA医師の証言に基づき、被告人の暴行により傷害が生じたと認定した。A医師は、頭部・顔面の皮下出血は拳やかかとなど作用面の小さい鈍体による多数回の打撃で生じたものであり、階段の縁のような角稜のある鈍体による挫裂創や表皮剥奪は認められないと証言した。右腎破裂についても、背中側から局所的にめり込む強い力が必要であり、階段からの転倒落下では生じ得ないとした。弁護人の反論はいずれも排斥され、被告人の供述は客観的な負傷状況と整合せず信用できないと判断された。 第2の争点について、被告人は交番に母親を殴ったと通報したものの、暴行の回数等を過少に偽り、死因となった傷害を生じさせた暴行の大半を隠して申告しているため、自首は成立しないと判断された。 量刑について、裁判所は、高齢の実母に対する一方的かつ執拗な多数回の強度の暴行であり犯行態様は極めて悪質であること、被害者が瀕死の状態にあることを認識しながら救護措置や119番通報を行わなかったこと、不合理な弁解に終始し真摯な反省に欠けることを指摘し、親に対する傷害致死事案の中でも重い部類と位置付けた。他方、前科がなく再犯可能性も低いことを考慮し、被告人を懲役7年に処した(求刑懲役10年)。