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【事案の概要】 退去強制令書の発付を受け、東京入国管理局収容場(東京入管収容場)に収容されていたブラジル国籍の原告が、茨城県牛久市所在の東日本入国管理センターへ移収される際、東京入管に所属する入国警備官らが行った制圧行為が国家賠償法上違法であるとして、被告(国)に対し、国賠法1条1項に基づき500万円の損害賠償を求めた事案である。 原告は、移収当日(平成30年10月9日)、収容居室内のトイレに長机2台を持ち込んでバリケードを築き立てこもった。入国警備官らは複数名で原告をトイレから連れ出し、四肢を掴んで床に組み伏せ、後ろ手錠を施した上で、原告の身体を持ち上げてうつ伏せの状態で入出所手続室まで搬送した。入出所手続室では、マット上にうつ伏せにされた原告に対し、所持品確認の手続中、A警備官が原告の頭部を約8分間にわたり体重を掛けて押さえ付けた。原告は、これらの制圧行為により左肩に傷害を負ったと主張し、傷害慰謝料145万円、後遺症慰謝料550万円及び逸失利益約588万円の合計約1283万円のうち500万円を請求した。 【争点】 1. 東京入管入国警備官の原告に対する制圧行為等が国賠法上違法であるか 2. 損害の発生及びその数額 【判旨】 裁判所は、制圧行為を3段階に分けて検討した。 第一に、原告居室内での制圧(全身の押さえ付け・後ろ手錠の施錠・身体の持ち上げ)については、原告がトイレに長机でバリケードを築いて立てこもり、全身に力を込めて抵抗していたことから、送還目的の実現のために必要かつ相当な限度にとどまるとして適法と判断した。 第二に、居室から入出所手続室までの搬送については、原告が興奮して大声を上げ、他の被収容者も叫び声を上げて集団騒擾のおそれがあったこと、搬送時間が約2分間にとどまることから、必要かつ相当な範囲内とした。搬送中に警備官の右前腕が約10秒間原告の首下に入った点も、腕の位置がずれたことによるもので相当性を欠くとまではいえないとした。 第三に、入出所手続室内でのA警備官による頭部の押さえ付けについては、違法と判断した。その理由として、(1)原告の抵抗は移収開始当初と比較して相当程度弱まっており、自傷他害の具体的危険が減少していたにもかかわらず、体重約90kgのA警備官が約8分間にわたり体重を掛けて頭部を押さえ続けたこと、(2)所持品確認のために原告の頭部の向きを強制的に変える必要はなく、リュックサックを原告の視線方向に持ち運べば足りたこと、(3)A警備官は指揮官の指揮命令なく独自の判断で制圧行為に及んでおり、被収容者の安全を保護する重要な規律に背いたことを挙げた。 損害については、左肩の後遺障害とA警備官の制圧行為との相当因果関係は認められないとしたが、頭部への圧迫により左目上まぶた・こめかみ・左頬等にうっ血が生じたことを認定し、制圧行為の危険性、原告が覚えた恐怖感及び屈辱感等の精神的苦痛を考慮して、慰謝料10万円の限度で請求を認容した。