特許権侵害差止請求控訴事件
判決データ
- 事件番号
- 令和4ネ10017
- 事件名
- 特許権侵害差止請求控訴事件
- 裁判所
- 知的財産高等裁判所
- 裁判年月日
- 2022年6月29日
- 裁判官
- 本多知成、浅井憲、中島朋宏、泉谷玲子、田中康子
- 原審裁判所
- 東京地方裁判所
AI概要
【事案の概要】 控訴人(特許権者)は、「イソブチルGABAまたはその誘導体を含有する鎮痛剤」に関する特許権を有する外国製薬会社である。被控訴人は、同特許に係る化合物(プレガバリン)を有効成分とするジェネリック医薬品の製造・販売を行う会社である。控訴人は、被控訴人によるジェネリック医薬品の販売等が自社の特許権を侵害すると主張し、特許法100条1項・2項に基づき、当該医薬品の製造・販売等の差止め及び廃棄を求めた。被控訴人のジェネリック医薬品は「神経障害性疼痛」及び「線維筋痛症に伴う疼痛」を効能・効果とするものであった。原審(東京地裁)は控訴人の請求を全部棄却し、控訴人がこれを不服として控訴した。 【争点】 主な争点は、(1)本件特許が実施可能要件(特許法36条4項)に違反し無効とされるべきか、(2)訂正請求による特許の訂正が認められるか、(3)被控訴人のジェネリック医薬品が訂正後の発明の技術的範囲に属するか、(4)均等侵害が成立するか、である。特に、本件明細書に記載された薬理試験(ホルマリン試験、カラゲニン試験、術後疼痛試験)のデータにより、本件化合物があらゆる「痛み」の処置に使用できることを当業者が理解できるかが中心的な争点となった。 【判旨】 知的財産高等裁判所は、控訴を棄却した。まず、医薬用途発明における実施可能要件について、当業者が過度の試行錯誤なく当該発明に係る物を使用できる程度の記載が必要であり、具体的には薬理データ又はこれと同視できる程度の事項の記載により、当該物質が当該用途の医薬として使用できることを当業者が理解できる必要があるとの判断枠組みを示した。その上で、本件明細書に記載された3つの薬理試験はいずれも特定の痛みに対する効果を示すにとどまり、原因を異にするあらゆる「痛み」に効果があることの裏付けにはならないと判断した。控訴人は、慢性疼痛は全て神経細胞の感作により生じるとの技術常識が出願日当時に存在したと主張したが、裁判所はこれを否定した。訂正請求についても、訂正事項が明細書に記載した事項の範囲内の訂正とはいえないとして許されないと判断した。さらに、訂正後の発明についても、被控訴人医薬品の効能・効果である神経障害性疼痛及び線維筋痛症に伴う疼痛は、訂正後の構成要件を充足しないとし、均等侵害も否定して、原判決を維持した。