特許権侵害差止請求控訴事件
判決データ
AI概要
【事案の概要】 本件は、「イソブチルGABAまたはその誘導体を含有する鎮痛剤」に関する特許権(特許第3693258号)を有する控訴人(外国製薬会社)が、被控訴人(日本の後発医薬品メーカー)に対し、被控訴人が製造・販売する医薬品(神経障害性疼痛及び線維筋痛症に伴う疼痛を適応症とするもの)が本件特許権を侵害するとして、特許法100条1項及び2項に基づき、販売等の差止め及び廃棄を求めた事案の控訴審である。 原審は、訂正前の請求項1及び2について実施可能要件及びサポート要件の各違反を理由に特許無効審判により無効にされるべきものと認め、訂正の再抗弁も認めず、また被告医薬品は訂正後の請求項3及び4の技術的範囲に属しないとして、控訴人の請求を棄却していた。本件の核心は、明細書に記載された3つの薬理試験(ホルマリン試験、カラゲニン試験、術後疼痛試験)の結果から、本件化合物が神経障害性疼痛や線維筋痛症にも有効であると当業者が理解できるか否かにあった。 【争点】 主な争点は、(1)訂正前発明1及び2の実施可能要件違反・サポート要件違反の有無、(2)訂正の再抗弁の成否(訂正要件の具備)、(3)被告医薬品が訂正後の請求項3及び4の技術的範囲に属するか(文言侵害・均等侵害の成否)であった。控訴人は、慢性疼痛は全て神経細胞の感作により生じるとの技術常識が出願時に存在し、明細書記載の3試験の結果から神経障害性疼痛等への効果も当業者は理解できると主張した。 【判旨】 知財高裁は控訴を棄却した。まず実施可能要件について、出願日当時の技術常識として、慢性疼痛は発生機序に応じて侵害受容性疼痛・神経障害性疼痛・心因性疼痛等に分類され、治療方法も異なると認定した。明細書記載の3試験はいずれも侵害受容性疼痛の効果を確認するものであり、神経障害の動物モデルとして知られたベネットモデル等は選択されていないことから、当業者は神経障害性疼痛に対する効果は確認されていないと認識すると判断した。あらゆる慢性疼痛が神経細胞の感作で生じるとの技術常識は認められず、3試験の結果のみから本件化合物があらゆる痛みに有効であるとは理解できないとして、実施可能要件及びサポート要件の違反を認めた。訂正の再抗弁についても、「神経障害又は線維筋痛症による痛覚過敏又は接触異痛の痛み」に本件化合物が有効であることは明細書の記載から導かれる技術的事項とはいえず、新規事項の追加に当たるとして退けた。さらに、被告医薬品の技術的範囲への属否についても、構成要件の「炎症を原因とする痛み」等は侵害受容性疼痛を意味するところ、被告医薬品の適応症である神経障害性疼痛及び線維筋痛症は侵害受容性疼痛に該当しないとして文言侵害を否定し、均等侵害も医薬用途発明の本質的部分に係る相違であるとして否定した。