AI概要
【事案の概要】 本件は、被告(株式会社三井ハイテック)が有する「回転子積層鉄心の製造方法」に関する特許(特許第5357217号)について、原告(トヨタ紡織株式会社)が特許無効審判を請求したところ、特許庁が請求不成立の審決をしたため、原告がその取消しを求めた審決取消訴訟である。本件特許は、複数の鉄心片が積層された回転子積層鉄心の磁石挿入孔に永久磁石を挿入し、樹脂を磁石挿入孔にのみ注入して固定する製造方法であって、回転子積層鉄心の上下に樹脂ポットとプランジャを備えた上板部材及び下板部材を配置し、上下から押圧して樹脂封止を行うことを特徴とする。本件特許は最初の親出願からの分割出願であり、原告は分割要件違反(特許法44条2項)、実施可能要件違反(同法36条4項1号)及びサポート要件違反(同法36条6項1号)を主張した。 【争点】 (1) 分割要件に関する判断の誤りの有無。原告は、最初の親出願の明細書等にはかしめ積層された回転子積層鉄心における逃げ空間を備える構成のみが開示されていたのに対し、本件発明はかしめ部なし構成を含むため、新たな技術的事項を導入するものであると主張した。特に、最初の親出願の出願当時、回転子積層鉄心の鉄心片の固定手段としてかしめが技術常識であり、溶接や接着は実用化されていなかったと主張した。(2) 実施可能要件に関する判断の誤りの有無。原告は、かしめ部なし構成及び逃げ空間なし構成について明細書に記載がなく、課題を解決するための構成が明らかでないと主張した。(3) サポート要件に関する判断の誤りの有無。原告は、本件発明の課題はかしめ部を前提としたものであり、かしめ部なし構成を含む本件発明は発明の詳細な説明に記載されたものではないと主張した。 【判旨】 知的財産高等裁判所は、原告の請求を棄却した。(1) 分割要件について、裁判所は、最初の親出願の出願日である平成17年1月12日当時の技術常識として、回転子積層鉄心の固定方法はかしめに限られず、溶接や接着も選択肢として存在していたと認定した。原告が主張するかしめが唯一の技術常識であったとの点については、かしめが広く一般的に用いられていたことを超えて、溶接や接着がもはや選択肢となっていなかったとまでは認められないとした。そして、最初の親出願の明細書等には本件発明を含む発明が記載された上で、かしめ部あり構成の場合の問題点について逃げ空間あり構成が更に記載されているというべきであり、逃げ空間あり構成の記載があることをもって本件発明の記載が存在しないとはいえないと判断した。(2) 実施可能要件について、本件明細書の発明の詳細な説明は当業者が過度の試行錯誤を要することなく本件発明を実施できる程度に明確かつ十分に記載されていると認定した。(3) サポート要件について、本件発明の課題の一つは樹脂漏れのない永久磁石の樹脂封止であり、上板部材及び下板部材で回転子積層鉄心を上下から押圧して樹脂封止を行うという構成により当該課題が解決できると当業者は認識し得るとして、サポート要件違反を否定した。